労働者と雇用者の間に交わされる契約内容を明示する雇用契約書と労働条件通知書には、その目的や法的な位置付けに違いがあります。雇用契約書や労働条件通知書に記載しなければならない内容は法改正によって変わることがあり、多くの企業にとって重要な課題です。
また、2024年度には労働条件通知書の記載事項に関して法律が改正されたため、変更点を理解し適切に対応する必要があります。
この記事では雇用契約書と労働条件通知書の違い、2024年度の法改正の具体的な内容と企業が取るべき対応について詳しく解説します。
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雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と労働条件通知書は、どちらも労働者と雇用者間の契約内容を明示するために使用される文書ですが、その目的と法的な位置付けには違いがあります。
雇用契約書とは
雇用契約書は、労働者と雇用者の間で合意される契約書であり、雇用条件が具体的に記載されています。雇用契約書は労働契約の成立を証明する重要なもので、通常、両者の合意の下で署名され、捺印されます。雇用形態によって、無期雇用契約または有期雇用契約として作成されることがあります。
労働条件通知書とは
労働条件通知書は、労働基準法第15条及び労働基準法施行規則第5条に基づき、雇用者が労働者に交付する義務がある文書です。この文書には、就業場所、業務の内容、労働時間、休日、賃金などの基本的な労働条件が明記されています。
ただし、労働条件通知書は雇用者から労働者へ一方的に通知される文書であるため、労働者の同意が得られているか確認できない形式になってしまう場合があります。
そこで、「労働条件通知書兼雇用契約書」という雇用契約書と労働条件通知書が一体となった文書が発行されるケースが多く見られます。労働条件通知書兼雇用契約書は、労働条件通知書に記載しなければならない項目がすべて明記されており、かつ雇用者と労働者双方の同意が確認できる形式となっています。
2024年法改正の適用範囲
2024年4月の法改正では、労働条件通知書における記載事項が拡大されます。新たに明示事項として記載が求められるのは、就業場所や業務内容の変更の範囲、有期労働契約の更新回数上限の有無や内容、無期転換の申し込み機会及び無期転換後の労働条件です。
これにより労働契約の透明性が高まり、労働者・使用者間の誤解やトラブル防止が期待されます。この改正はすべての労働者に適用され、特に更新を前提とした有期契約において重要な変更が加えられます。
2024年の法改正は、雇用の安定性と公正を確保するための重要な手段として位置付けられ、雇用契約の透明性が一層重視されます。雇用者は新しい要件を遵守することで法的な責任を果たし、労働者は自らの権利をより明確に理解できるようになります。
2024年度の法改正に伴う変更点
2024年4月より施行される労働基準法の改正は、労働契約の透明性を高めるための重要な位置付けとされています。
1.就業場所・業務の変更の範囲の明示
すべての労働者との雇用契約締結時及び有期契約の労働者の契約更新時に、雇用直後の就業場所及び業務内容と、それが将来的な配置転換などでどのように変更され得るかを事前に明示することが求められます。これにより、労働者は職場や職務の変更が生じた場合の具体的な範囲を事前に理解し、安心して働くことができるようになります。
2.更新上限の有無と内容の明示
有期労働契約締結時には、契約の更新に関する基準と上限回数を明示する必要があります。明示する内容には、契約更新に上限があるかないか、またその内容や条件は何かを明確にすることが含まれます。
さらに雇用者は、有期労働契約を更新するたびに更新回数の上限の有無とその内容を労働者に明示し、更新上限を新たに設ける場合、または短縮した場合にはあらかじめ労働者に説明する必要があります。
この変更により、労働者は自身の雇用の持続性を把握でき、将来のキャリアプランニングに役立てることができます。
3.無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の明示
通算契約期間が5年以上となった有期契約労働者は、無期契約への転換を申し込む権利が保障されています。今回の法改正では、契約更新の際に無期転換申込権が生じる場合に無期転換を希望できる旨とその申込方法、転換後の労働条件を明示することが義務付けられました。労働者はこの情報を基に、安定した雇用形態への移行を検討できるようになります。
また、有期労働更新の際に無期転換申込権が発生する場合、賃金その他の労働条件において他の労働者(正社員や無期雇用のフルタイム労働者など)との均衡を考慮した事項を説明することが求められます。
この法改正は、労働者と雇用者間の認識の齟齬を解消し、労働条件に関する透明性を高めるために設計されています。企業は新しい法的義務を遵守するために、既存の人事管理システムや契約書フォーマットを見直し、必要に応じて更新することが求められます。
法改正に伴う労働条件通知書の追記事項
2024年4月に施行される労働基準法の改正には、すべての雇用者が遵守しなければならない「必須事項」と、推奨されるが義務ではない「推奨事項」が含まれます。
必須事項
以下の事項は、雇用者から労働者への通知が法的に義務付けられており、労働条件通知書に記載しなければならない条件です。
契約更新上限・無期転換の申込み機会
2024年4月の法改正では、有期労働契約における更新上限を具体的に明示する必要があります。通算契約期間や更新回数に上限がある場合、その内容を労働者に明確に伝えなければいけません。
また、無期転換に関して、有期契約が5年を超えた場合に無期労働契約への転換を申し込むことができる機会があることの明示が義務付けられています。
就業場所・業務内容
労働条件通知書には雇用直後の就業場所や業務内容と、配置転換などによる変更可能性・範囲を具体的に記載しなければいけません。
正しい記載例
- 「就業場所は東京本社、または国内の各支店。従事する業務は営業職で、将来的にはマーケティングや広報の業務に異動する可能性がある。」
- 「初任地は大阪オフィス。業務の需要に応じて国内外の事業所への転勤がある。主な業務内容はシステム開発、プロジェクトによりデータ分析や研究開発にも従事する可能性がある。」
誤った記載例
- 「就業場所や業務内容については、入社後に決定する。」
- 「業務内容は会社の事情に応じて変更することがある。」
推奨事項
以下は、法律による強制力はないものの、厚生労働省のモデル労働条件通知書には記載されている項目です。
創業支援等措置(70歳までの就業機会確保)
高齢者の雇用を促進するための措置として、70歳までの就業機会の確保に関する情報の提供が推奨されています。労働人口の減少と高齢化に伴い、高齢者が能力に応じて働ける環境を整える必要があるためです。
中小企業退職金共済制度・企業年金制度による追加事項
中小企業における退職金共済制度や企業年金制度の導入が推奨されています。これらの制度を導入することにより、従業員に対する福利厚生が図られ、企業の競争力強化に寄与します。
就業規則を確認できる場所・方法
就業規則の確認方法と場所を明示することも推奨されています。これにより、労働者が自身の権利や義務を正しく理解し、必要に応じて参照することが容易になります。
上記の事項は労働環境の透明性を高め、労働者と雇用者間の誤解を生まないために記載が推奨されます。
労働条件通知書の書き方と義務について
労働条件通知書は、労働契約の条件を明確に伝えるための重要な文書です。2024年の法改正により、労働条件通知書の内容と提供方法に新たな義務が課されています。
労働条件通知書のテンプレート
労働条件通知書の作成にあたり、厚生労働省が提供するテンプレートの使用が推奨されています。テンプレートには、契約期間、就業場所、業務内容、賃金、労働時間など、法改正に対応したすべての条件が含まれています。
詳細やテンプレートのダウンロードリンクは、厚生労働省の公式ウェブサイトに掲載されています。
・厚生労働省:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)
労働条件通知書の明示義務
2024年の法改正で追加された事項を含めた、労働条件通知書に明示すべき労働条件の一覧は以下のとおりです。
明示すべき労働条件
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
参考リンク:厚生労働省「よくある質問」
労働条件明示義務に違反した場合
労働基準法に基づき、雇用者は労働者に対して労働条件を文書で明示する義務があります。この義務を怠った場合、いくつかの法的措置が取られる可能性があります。
違反が発見された場合、まず労働基準監督署から是正勧告が行われます。是正勧告に従わない場合や違反が重大な場合、違反が繰り返される場合は具体的な業務改善命令が出されたり、違反事実が公表されることがあります。
また、労働条件の明示義務に違反した雇用者には、30万円以下の罰金が科されます。
・参考リンク:e-GOV「労働基準法」
雇用者は、これらの罰則を避けるためにも労働条件の明示義務を遵守し、労働者との間で透明かつ公正な労働環境を保ちましょう。また、労働者側も自らの権利を理解し、不適切な労働条件には適切な対応を取ることが大切です。
労働条件通知書の法改正対応なら「i-Compass」
2024年の労働基準法改正に伴い、雇用契約書や労働条件の管理に関する要件が厳格化されています。改正された法律を遵守し、同時に労働条件の透明性と効率性を向上させるために、i-Compass Web雇用契約の活用をおすすめします。
i-Compassとは
i-Compassは、多岐にわたるデジタルソリューションを提供するクラウドベースのプラットフォームです。1999年に学校向けの情報配信システムとしてスタートし、以来、企業や教育機関など、さまざまな分野において情報配信サービスを展開してきました。
現在では、スマートフォンやタブレットなど、新しいデバイスへの対応も迅速に行っており、企業にとって非常に便利なツールとなっています。
i-Compassの製品ラインアップ
- 携帯電話やパソコンからの給与明細閲覧:i-Compass WEB給与明細
- 雇用契約書、入社手続きの電子化:i-Compass WEB雇用契約
- 人材マネジメントにおける課題解決をサポート:i-Compass カラタレ
- 学生生活をサポート:i-Compass 出席管理
- BtoBサイトの構築・運営を支援:i-Compass EC-Navi
- LPガス請求書をWeb配信しペーパーレス化:i-Compass LPガスWEB請求
i-Compass Web雇用契約のご紹介
i-Compass Web雇用契約は、雇用契約書や入社手続きをデジタル化し、オンライン上で簡単に処理できるサービスです。これにより、紙の文書やハンコ、手書きのサインが不要となり、手間とコストを大幅に削減できます。
2024年の労働基準法の改正に伴い雇用契約の透明性がより一層求められる中で、このシステムは企業にとって大きな助けとなります。
サービスの主な特長
- ペーパーレス運用:紙の使用を削減し、環境に優しい運用が可能です。
- 時間とコストの節約:デジタル化により、書類の準備や送付にかかる時間とコストを削減できます。
- セキュリティとコンプライアンスの強化:大切な書類を安全に電子保管し、コンプライアンスを遵守できます。
労働者や入社予定者がスマートフォンやパソコンからいつでも契約内容を確認できるため、透明性が高まります。また、入社予定者から書類が返ってこないといった問題を解消し、入社手続きのスピードアップが可能です。
まとめ:労働条件通知書の変更点を理解して適切に対応しよう
2024年の法改正によって、労働基準法施行規則及び有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準が変更されます。これらの変更は、雇用の透明性を高めると共に、労働者と雇用者の間のトラブルを未然に防ぐことを目的としています。
法改正のポイント
- 就業場所・業務内容の明示:雇用者は労働者が就業する場所や担当する業務内容と、将来的な変更の範囲を明示する必要があります。
- 契約更新条件の明確化:有期契約の更新上限と内容を明示することが義務付けられます。
- 無期転換の機会の提示:長期(5年超)の有期契約労働者に対する無期転換の機会の明示が義務付けられます。
対応策
- 情報システムの導入:i-Compassのようなデジタルプラットフォームを活用して、労働条件の明示、雇用契約の管理、入社手続きのデジタル化を行うことで、法改正への効率的な対応が可能です。
- 教育とトレーニング:雇用者及び人事部門に対して、改正された法律に基づく新しい義務や手続きについての研修を実施することで、適切な法令遵守体制を構築します。
- コンプライアンスの強化:法改正に関する最新情報を常に把握することで、法律遵守の水準を高めます。
今回の法改正は、日本の労働市場における公正さと透明性を一層強化するものです。雇用者は、法改正の内容を理解し、適切に対応することで、労働者との関係をより良好に保つことができます。また、労働者自身も自らの権利を理解し、必要に応じて情報を確認することが重要です。相互に信頼できる健全な労働環境づくりをより一層促進していきましょう。