製造業の生産性を向上させるには、ICTの活用が有効です。ICT活用によって、業務を省力化・効率化すれば、限られたマンパワーで高品質な製品を製造できます。
さらに人的要因でのミスや品質の低下を防げるため、機会損失やお客さま離れを防止できます。製造業の生産性を向上させるために、ICT活用を検討しましょう。
本記事では、ICT活用で製造業の生産性を向上させる手順を詳しく解説します。製造業が生産性向上に取り組むべき理由と、生産性が低下する要因を併せて解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
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製造業における生産性
生産性とは、原材料や労働力・設備などの資源を活用して得られる生産量の割合を意味します。製造業においては、生産物に対して製造工程でどのくらいの工数や労働時間・原材料費などを費やしたか、製品を生産する上での効率と捉えれば良いでしょう。
生産性を向上させるには、できるだけ人件費や原材料費・設備費を抑えて、より多くの製品を製造する「製造工程の効率化」が求められます。具体的には、従業員1人あたりの生産性や、拠点全体における1時間あたりの生産性などの労働生産性を高めましょう。生産性を高めるための設備投資も必要です。
製造業が生産性向上に取り組むべき理由
製造業が生産性向上に取り組むべき理由は、次のとおりです。
- 日本の労働生産性が低い
- 労働人口が減少している
- 利益の向上につながる
- 競争力を強化できる
それぞれの理由について詳しく確認していきましょう。
日本の労働生産性が低い
日本は諸外国と比較して労働生産性が低く、生産性の向上が重要視されています。ヨーロッパ諸国を中心に世界の先進国38カ国が加盟する国際機関「OECD(経済協力開発機構)」のデータによると、日本の生産性は以下のとおりです。
項目 |
ドル(OECD平均) |
順位/38位中 |
1時間あたりの労働生産性 |
52.3(65.2) |
30位 |
労働者1人あたりの労働生産性 |
85,329(115,454) |
31位 |
製造業における労働者1人あたりの労働生産性 |
94,155 |
18位 |
参照元:労働生産性の国際比較2023|公益財団法人 日本生産性本部
また、同資料内の「製造業の労働生産性水準の国際比較」によると、日本の製造業の生産性は2000年にはOECD 諸国中トップだったものの、その後下降して2015年以降は16位から19位にとどまっています。2021年の実績では、米国の生産性の約6割の水準です。
日本の製造業が国際競争力を保つためには、労働生産性の向上が必要不可欠です。
労働人口が減少している
現在は少子高齢化に伴い、労働人口が減少しています。業界を問わず深刻な人材不足に陥っており、製造業でも限られた人材で大量の製品を製造することが求められます。
労働人口が減少する中で高品質な製品を大量に製造するには、優秀な人材の獲得や業務の効率化、設備やICTの充実が必要です。業務の効率化やICTの導入によって生産性を向上できれば、従業員の負担を軽減できるため、採用力や人材定着率の向上にもつながります。
利益の向上につながる
少ない資源と労働力でより多くの製品を生産できれば、損失やコストを抑えられるため利益率が向上します。
出費を抑えて収入を増やすためには、業務フローを改善して不要なコストを削減する取り組みが必要です。ICT活用による省力化も利益率向上につながります。
競争力を強化できる
製造業では、国内外を問わず競合と差別化を図り市場のシェアを獲得する競争力が求められます。高い技術力と高品質なサービスを兼ね備えた企業が市場シェアを獲得し、利益の向上につなげられます。
生産性を向上できれば、限られた資源・労働力でより高品質な製品を提供できるため、市場シェアの拡大が可能です。
製造業の生産性が低下する要因
製造業の生産性を向上させるために「なぜ生産性が低下するのか」原因を理解しておく必要があります。
少子高齢化による人材不足については、先に触れましたがその他の要因についてみていきましょう。
- 管理不足
- 情報共有不足
- 業務の属人化
- 作業ミスが起きやすい環境
生産性を向上させるため、自社に当てはまる要因を確認しておきましょう。
管理不足
管理不足による過剰在庫や在庫切れなどの損失は、企業の利益を減少させる課題です。
適切に作業工程や在庫・受注予測を管理できていないと、市場のニーズに応えられなかったり在庫を抱えてしまったりと、損失が生じます。
手書きやExcelでの管理ではこうした問題が起きやすいため、生産管理システムを導入することで、管理不足の問題解決につなげられます。管理業務に費やしていたリソースを削減できれば、従業員の負担も軽減できます。
情報共有不足
製造業で製品を製造し市場に流通させるためには、さまざまな部署と連携しコミュニケーションを取らなければなりません。しかし組織内の情報共有が疎かになれば、コミュニケーションが遅延し業務効率が低下してしまいます。
複数の部署間での情報共有を円滑にするために、ICTの活用によってリアルタイムで情報を共有し、情報の可視化を実現しましょう。
業務の属人化
業務が属人化すると特定の従業員の不在中に業務を遂行できなくなり、生産性が低下します。また、担当者が部署異動や退職した際に、技術が失われる可能性があります。
情報を一元管理・蓄積することで「ナレッジデータベース」を構築し、新人のスキルやノウハウを育成できる仕組みを整えれば、業務の属人化を防止することが可能です。組織内から技術が失われることなく、スムーズに引き継ぎができるため、生産性の低下を防止できます。
作業ミスが起きやすい環境
作業ミスが起きやすい環境では、生産性が低下します。作業手順が明確化されていなかったり、作業環境が整備されていなかったりと、作業ミスが起きやすい環境では不良品が発生しやすくなります。
また作業ミスが起きやすい環境は、従業員の経験に依存しているケースが多く、新人作業員に適切な業務手順やノウハウを伝達できない可能性があります。作業手順を標準化し品質管理を徹底することで、作業ミスが起きにくい環境を整備できます。
ICT活用で製造業の生産性向上が可能
製造業の生産性を向上させるには、ICTの活用が有効です。具体的には次のような効果を得られます。
- 業務を省力化・効率化できる
- 品質の安定・向上につながる
- ミスの少ない生産管理ができる
ICT活用で生産性が向上する理由を確認して、ICTの導入を検討しましょう。
業務を省力化・効率化できる
ICT活用によって、業務を省力化・効率化させれば、製造業の生産性を向上できます。
従来であれば人的リソースを費やしておこなってきた業務が、ICTによって自動化・省力化できるため、従業員の負担を軽減できます。
総務省が公表した「ICTによる生産性向上方策と効果」によると、「国内企業がICTにより解決した経営課題の領域」は、次のとおりでした。
ICTにより解決した経営課題 |
割合/50 |
業務プロセスの効率化(省力化など) |
48.3 |
迅速な業務把握、情報把握 |
30.1 |
開発・運用コストの削減 |
25.8 |
ビジネスモデルの変革 |
19.9 |
グローバル化への対応 |
16.5 |
ICTの導入によって業務プロセスの効率化・省力化を実感した企業がもっとも多く、生産性の向上につながっているといえます。
品質の安定・向上につながる
ICT活用によって、業務の属人化や管理不足を解消すれば、品質の安定・向上につながります。
業務が属人化したり管理体制が疎かになっていたりすると、作業ミスや不良率が増加し、品質を安定させられません。ICT活用によって作業手順を標準化し、情報共有の円滑化や管理体制の強化を実現しましょう。
ミスの少ない生産管理ができる
生産管理システムなどのICTは作業工程の標準化やデータの一元管理に役立つため、ミスの少ない生産管理を実現することが可能です。作業ミスを軽減することで廃棄や修正に伴うコストを抑制し、生産性の向上につなげましょう。
また、ミスの少ない生産管理を実現すれば品質の安定・向上にもつながるため、高品質な製品を製造できます。そのため、お客さま満足度の向上と、企業イメージの向上も期待できます。
ICT活用で製造業の生産性を向上させるステップ
日本は、労働生産性が低いだけでなく、ICTの導入率も低い傾向にあります。総務省が公表した「ICTによる生産性向上方策と効果」によると、各国企業のICT導入状況は次のとおりでした。
国 |
ICT導入済み |
ICT未導入 |
日本 |
70.2% |
29.8% |
米国 |
80.8% |
19.2% |
英国 |
94.4% |
5.6% |
ドイツ |
93.8% |
6.2% |
上記のように世界各国の先進国と比較した場合、日本のICT導入率は低い水準にとどまっています。製造業においても、生産性を向上させるためにはICT導入が欠かせません。
ICT活用で製造業の生産性を向上させるステップは、次のとおりです。
-
- 目標を設定して計画を立てる
- 業務における課題を洗い出す
- 自社に必要なソリューションを検討する
- ICT導入について社員に説明・研修を行う
- 導入効果を検証する
各ステップを確認して、ICT導入に向けて準備を進めましょう。
1.目標を設定して計画を立てる
ICT導入に向けて、目標を設定して計画を立てる必要があります。計画を立てずにICTを導入しても、「どのような成果を得たいのか」目標が設定されていないと、思いどおりの成果を得られません。
まずはICT活用によって得たい成果を明確化して、目標を設定しましょう。目標の例としては、次のようなものがあります。
- 利益率を向上させる
- お客さま満足度を高める
- 従業員の定着率を向上させる
- 品質を安定・向上させる
- 製造量・在庫数を適正化する
上記は一例ですので、自社が抱える課題を明確化し、達成したい目標を設定することが大切です。
2.業務における課題を洗い出す
ICTを導入する目標と計画を立案できた後は、現状の業務における課題を洗い出しましょう。生産性を低下させている要因が判明しない限りは、どのような施策を実施するべきか打開策が見つかりません。
各工程の作業時間や不良率・コストを分析し、生産性低下につながる課題を洗い出す必要があります。
また、現場の従業員にアンケートやヒアリングを実施して「作業しにくいと感じる部分」や「改善してほしい点」を洗い出せば、より実務に寄り添った課題を明確化できます。
3.自社に必要なソリューションを検討する
ICT導入の目標と現状の課題を可視化できたら、自社に必要なソリューションを検討する段階です。自社の課題を解消し目標達成ができるよう、導入するべきシステムやツールを選定しましょう。
例えば、組織内の情報共有不足が課題の場合は、情報を一元管理できるシステムや部署間のコミュニケーションを円滑にするツールが必要です。業務の属人化や管理不足が課題の場合は、生産管理システムや作業工程を標準化できるICTの導入が求められます。
4.ICT導入について社員に説明・研修を行う
導入するICTを選定できたら、組織内でICT活用の情報を共有・周知させる必要があります。ICT導入について丁寧に従業員への説明と研修を実施することで、スムーズなICT活用を実現できます。
ICT導入に伴い変更される作業手順や操作マニュアル、人材配置などの変更点を共有し、「なぜICTを導入するのか」目的と現状の課題を説明しましょう。また、ICT導入によって現状の課題がどのように解消されるか、必要性を説明することで従業員のモチベーション向上につながります。
5.導入効果を検証する
ICTを導入したら、本来の目的が達成されているか判断するために効果を検証しましょう。ICTを導入する前後の作業効率や労働生産性を比較すれば、どの程度効果があったのか検証できます。
ICT導入によって解消された課題や得られた効果を明確化すれば、ICT活用による費用対効果も測定できます。また、ICT導入によって新たな課題が生じた場合は、課題を解決するための打開策も検討しましょう。
導入してすぐの段階では、従業員がICTの操作に慣れておらず生産性が低下する可能性もあるため、中長期的に効果を検証して改善を繰り返しましょう。
製造業における生産性向上はICT導入が効果的!
デジタル化によって業務効率を向上させれば、労働時間の軽減や品質の安定・向上につながります。生産現場のデジタル化は国内の同業他社はもちろん、海外製品と競う上でも重要です。データやエビデンスに裏付けられた品質・技術力といった付加価値を高めるためにも、ICTの活用を進めましょう。
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