商品や製品を抱える企業は、決算で売上原価を確定させるために、実地棚卸を実施する必要があります。
実地棚卸とは、実際に在庫を数えて在庫の数量や状態を確認することです。
決算期末や月末など定期的に実施することで、企業の財務諸表の透明性を高めることが可能です。
本記事では、実地棚卸の概要や目的、帳簿棚卸との違いについて解説します。
また、実地棚卸を実施する手順や注意点についても紹介するため、ぜひ最後までご覧ください。
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実地棚卸とは
実地棚卸とは、企業が持っている在庫を実際に数えて、数量や状態を確認する作業のことです。
帳簿に記載している数値と実際の在庫状況は異なることがあるため、決算期末や月末などの決まった時期に定期的に実施する必要があります。
例えば、帳簿への記入漏れや重複記帳などのヒューマンエラーによって、実際の在庫数が帳簿の数とずれることがあります。
また、紛失や横領、盗難などのトラブルが原因の場合も考えられるでしょう。
実地棚卸は、透明性の高い在庫管理を実現するために重要な作業です。
実地棚卸と帳簿棚卸の違い
実地棚卸と帳簿棚卸には、実施方法とタイミングに違いがあります。
項目 |
実地棚卸 |
帳簿棚卸 |
実施方法 |
現物を見てカウント |
入出庫記録を基にカウント |
実施タイミング |
基本は決算期末に実施 |
会期中は常に実施 |
実地棚卸は、時間と労力が必要となるため毎日はできません。
一方で、帳簿棚卸は在庫数の把握が簡単ですが、実際の在庫数とずれが出てくる可能性があります。
実地棚卸によって帳簿棚卸のずれを発見したときは、問題点を追及した後に在庫数を修正します。
正確な在庫管理のためには、実地棚卸と帳簿棚卸を併用することが有効です。
実地棚卸の目的
実地棚卸は、在庫数を正確に把握して、企業の経営判断を助ける効果があります。
特に製造業においては、資材やコストの管理に直結するため、定期的な実地棚卸は欠かせません。実地棚卸の主な目的は3つです。
1.期末棚卸高から当期利益を確定
2.在庫数と在庫の状態の確認
3.内部不正のチェック
ここからは、それぞれの目的について詳しく解説します。
期末棚卸高から当期利益を確定
実地棚卸は、企業が決算を迎えるときに重要な役割を担います。損益計算書を作成するにあたって、当期の正確な利益を確認する必要があるためです。
例えば、製造業では、原材料や仕掛品、完成品の在庫が多岐にわたります。万が一、誤った数値が反映されると、利益が過大もしくは過少に計上されてしまいます。
結果として、余分な税金を支払ったり、税務署に脱税の疑いを持たれたりなどのリスクが発生しかねません。
正確な利益計算においては、実地棚卸によって期末棚卸高を確定することが不可欠です。
在庫数と在庫の状態の確認
実地棚卸の目的は、在庫数と在庫の状態を確認することです。企業にとって商品や製品は、売上を高めるための大きな資産の一つです。
在庫数は帳簿上のデータで管理していても、在庫の状況は日々の業務の中で変動します。
例えば、在庫の経年劣化や不良品の発生により、商品の価値が低下する可能性がありますが、これらは実地棚卸でしか発見できません。
在庫の破損や紛失が多いようなら、管理体制を見直すことも視野に入れて検討する必要があるでしょう。
内部不正のチェック
実地棚卸を実施することで、内部不正を発見・予防できます。
在庫を多く抱える職場環境では、社内の窃盗や横領、意図的な記入ミスなどが発生するリスクは高まります。
そこで、実地棚卸を定期的に実施することで、在庫管理の透明性を高めることが可能です。
例えば、毎月末日に実地棚卸を実施する工場では、在庫管理が甘い工場に比べて、商品を意図的に流出させる抑止力が働きます。
このように、実地棚卸は単に在庫数を確認するだけでなく、企業内部の不正リスクを低減し、健全な経営環境を整えるための役割を果たします。
実地棚卸の手順
実地棚卸は、4つの手順を踏んで実施します。
1.実地棚卸計画の作成
2.実地棚卸の事前準備
3.実地棚卸の実施
4.データの集計・分析
ここからは、それぞれのステップごとに業務内容を解説します。
実地棚卸計画の作成
作業の遅延や混乱を防ぐために、できる限り詳細な計画を事前に立てておきましょう。具体的な項目は以下の通りです。
・日程
・タイムスケジュール
・棚卸する商品の範囲
・参加するスタッフ
実地棚卸計画の作成にあたっては、生産ラインや出荷作業との兼ね合いを考慮することが重要です。通常の業務への影響を最小限に抑えられる日程を組みましょう。
また、多種多様な在庫を抱える企業では、棚卸対象の在庫を分類し、優先度を決定することが有効です。
実地棚卸の事前準備
実地棚卸に必要な資料や機材、人材を揃える作業です。
まずは在庫管理システムから出力される最新のデータや在庫リストを用意しましょう。
それらの資料を基に、実際の在庫数と照合するためのチェックリストを作成します。
また、手作業でのミスを減らしてカウントの効率性を高めるためにデジタル機器を活用することも効果的です。
例えば、バーコードリーダーやハンディターミナルなどの機材があります。
さらに、実地棚卸を担当するスタッフへの説明・指導を怠ってはいけません。
万が一、カウント方法や在庫の取扱いに誤りがあると、実地棚卸の精度は大幅に低下します。
このように、正確な実地棚卸のためには資料、機材、人材の3つの事前準備が重要です。
実地棚卸の実施
事前に立てた計画に沿って、実地棚卸を実施します。
実地棚卸で在庫を確認する方法は、タグ方式とリスト方式の2つがあります。
カウント方法 |
特徴 |
タグ方式 |
・在庫の棚や実際の商品に連番のタグを貼り付ける ・最初に実際の在庫数をカウントしてから帳簿を確認する |
リスト方式 |
・目視または指さしで確認する ・リストに記載された在庫数を確認してから実際の在庫数をカウントする |
タグ方式のメリットは、カウント漏れが少なく確実性が高いことです。一方で、時間がかかることがデメリットとなります。
リスト方式のメリットは、カウントの手間が少ないことです。一方で、タグ方式のように目印がないため、重複や数え間違いが発生しやすいことがデメリットといえます。
棚卸作業の期間や商品の大きさによって、カウントの方法を決めましょう。
データの集計・分析
実地棚卸が完了したら、在庫管理システムや帳簿データと照らし合わせて、差異がないかを確認します。
もし実地棚卸と帳簿棚卸に差異がある場合は、原因を考えましょう。こちらは棚卸差異の原因の一例です。
・入出庫伝票の記入ミス
・システムへの転記ミス
・伝票や納品書の未着
・商品の紛失
どうしても棚卸差異の原因が突き止められないときは、「棚卸誤差率」という指標を用いて帳簿上の処理を行います。
棚卸差異の発生頻度が多い場合や修正する金額が大きい場合は、在庫管理体制を見直すことをおすすめします。
実地棚卸を行うときの注意点
多くの在庫が複雑に管理されている現場では、ミスや混乱を防ぐための対策が重要です。
ここでは、実地棚卸を実施するときに注意すべき3つのポイントについて解説します。
1.作業中は入出庫を止める
2.預け在庫は残高確認する
3.不良品も確認する
それぞれ、内容を見ていきましょう。
作業中は入出庫を止める
在庫の正確な数量を把握するためには、カウント作業中の商品の入出庫を止める必要があります。
もし実地棚卸の最中に商品が入庫または出庫してしまうと、帳簿との不一致が発生しやすくなるためです。
例えば、製造業では生産ラインに必要な材料や部品が頻繁に出入りすることが一般的です。
そのため、事前に入出庫のスケジュールを調整するなどの手続きが必要になります。
入出庫を止める代わりに作業時間を最小限に抑えるなどして、生産ラインに影響を与えない工夫をすることも重要です。
預け在庫は残高確認する
企業によっては、取引先や外部の倉庫に在庫を置いている場合があります。
これを「預け在庫」と言い、実地棚卸の計算対象となります。
預け在庫は、定期的な報告や契約書面で管理されることが一般的です。
自社の倉庫内にある商品と併せて残高確認することを忘れないように注意しましょう。
また、預け在庫の管理が曖昧になると、商品の数量や状態に関するトラブルとなる可能性があります。
取引先や外部の倉庫を管理する企業としっかり連携を取り、残高確認を怠らないようにすることが効果的です。
不良品も確認する
商品にならない不良品や在庫品については、通常の在庫とは異なる処理で扱われることに注意しましょう。
特に製造業では、生産過程で発生した不良品や劣化した在庫品が発生することは一般的です。具体的には、破損による消失や期限切れなどです。
不良品を放置すると、倉庫内に無駄なスペースが増えるだけではなく、正確な在庫の把握が難しくなります。企業にとっては大きな機会損失となる可能性もあります。
不良品は捨てたり無視したりせずに、経理上の処理を適切に行い、棚卸資産に組み込むか否かを判断しましょう。
効率的な実地棚卸を行うポイント
実地棚卸で正確性と効率性を高めるためには、2つのポイントを押さえる必要があります。
・2人1組で点検する
・DXツールを活用する
ここからは、それぞれ詳しく解説します。
2人1組で点検する
実地棚卸は、2人1組で点検することで正確性を高められます。
特に細かい部品や大量の在庫を扱う現場では、在庫数の確認ミスは後々大きなトラブルに繋がる可能性があります。
例えば、一人が在庫数のカウントを担当し、もう一人がチェックリストへの記入や帳簿確認を担当すると、ヒューマンエラーを防ぐことが可能です。
また、一人のスタッフに担当させると横領や不正のリスクが高まります。
実地棚卸の事前準備の段階で、ペアとなる2人の組み合わせを決定しておくと、当日の作業がスムーズに始められます。
DXツールを活用する
DX(デジタルトランスフォーメーション)ツールを活用することで、実地棚卸の効率性を高められます。具体的には、以下のようなツールが効果的です。
・バーコードリーダー
・RFID(無線自動認識)
・クラウドベースの在庫管理ソフト
従来の紙ベースの点検作業は、手作業でのカウントや記入により時間が必要なだけでなく、ヒューマンエラーが発生しやすい状況でした。
一方で、DXツールを活用すれば、棚卸後のデータ集計や分析も自動化できます。そのため、管理者は問題があれば、迅速に解決策を取ることが可能です。
実地棚卸の精度を上げて生産性を高めよう
実地棚卸は、在庫数と在庫の状態の確認するだけではなく、期末棚卸高から当期利益を確定し、内部不正の発見・予防に役立ちます。
これにより、企業は健全な経営基盤を構築でき、無駄なコストを削減し、効率的な生産を維持することが可能です。
特に製造業では、在庫管理の精度が生産ラインの安定や資金繰りに直結します。企業の在庫管理体制を整えて、利益を最大化しながら経営リスクを低減させましょう。
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