QCDとは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字を取ったものです。製品の品質と製造にかかるコスト・納期のバランスを図る指標であり、生産活動の質や業績を向上させるために重要な要素です。
製造業の業績を向上させたい企業は、QCDの重要性と改善方法を確認しておきましょう。
本記事では、QCDとは製造業における重要性を詳しく解説します。
QCDを改善する手順と具体的な方法もあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
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QCDとは
QCDとは、下記の頭文字を取った生産管理に関連する用語です。
- 品質(Quality)
- コスト(Cost)
- 納期(Delivery)
製品の品質は顧客満足度を左右するため、一定の水準を担保しなければなりません。
品質の良い製品を提供する企業は、市場からの信頼性が高まり新規顧客獲得と既存顧客の定着につながります。
また品質だけを重視して、製造コストが高くなると利益が減少してしまいます。
継続的に製品を生産して収益化するためには、余分なコストを削減して利益率の向上に努めなければなりません。
さらに品質とコストにこだわり、納期が遅れるとクライアントからの信頼性が失われます。
クライアントが求める納期に間に合うよう、生産管理を徹底することが大切です。
QCDの各要素について、生産管理の参考にしてください。
品質(Quality)
QCDにおける品質(Quality)は、製品やサービスの品質を指しており、顧客満足度につながる重要な要素です。
一定以上の品質を担保し、クライアントの課題を解決したりニーズを満たしたりする製品を提供できれば、顧客満足度が高まります。
また品質の高い製品は、リピート率が高まりクライアントとの関係性構築にもつながります。
反対に品質が低下すると、クライアントからの信頼が低下し、企業のイメージダウンにもつながるため注意しなければなりません。
企業の業績を向上させるために、品質を重視した生産計画が必要です。
コスト(Cost)
QCDにおけるコスト(Cost)は、製品を生産する過程で発生するさまざまな費用を指します。
製造業の生産活動では、原料費や設備運用費・人件費・設備を稼働させる光熱費など、さまざまな費用が必要です。
高価な原材料を使用し、最新の設備と豊富な人材で生産活動を行えば、高品質な製品を生み出せます。
しかし製造コストが高まると、企業の利益率が低下するため、製品1台あたりから得られる収益が減少します。
さらに十分な収益を得られない場合は、市場ニーズが高くても生産活動を続けられません。
継続的に生産活動を続けるためにも、不要なコストは削減する必要があります。
利益率の高い製品を提供すれば、1台あたりの収益性が高まるため、生産活動に対する費用対効果を高められます。
納期(Delivery)
QCDでは、品質(Quality)とコスト(Cost)だけでなく、納期(Delivery)のバランスを重要視しなければなりません。
どれだけ品質が良い製品を低コストで生産できても、クライアントの手元へ届ける納品スピードが遅いと、信頼を失ってしまいます。
QCDの納期(Delivery)は、生産ラインで製品が完成するまでの期間ではなく、出荷してクライアントの手元に届くまでの期間を指します。
また納期遅れだけでなく、早すぎる納品もクライアントの負担となる可能性があるため、注意しなければなりません。
納品スピードが早すぎると、クライアントの倉庫に保管スペースが空いておらず、余分に保管場所を確保する労力とコストがかかります。
指定されたタイミングで製品を納品できる信頼性が、クライアントとの関係性構築に重要です。
QCDの派生語
QCDの派生語として、次のような用語があります。
派生語 |
意味 |
QCDS |
QCD+Service(顧客対応) |
QCDE |
QCD+Environment(環境) |
QCDF |
QCD+Flexibility(柔軟性) |
QCDR |
QCD+Risk(リスク) |
QCDD |
QCD+Development(開発・発展) |
QCDSE |
QCD+Safety(安全性)+Environment(環境) |
QCDSM |
QCD+Safety(安全性)+Morale(やる気) |
QCDRS |
QCD+Risk(リスク)+Sales(セールス) |
QCDDM |
QCD+Delivery(納期)+Development(開発)+Management(管理) |
PQCDS |
QCD+P:Products(品種)+Safety(安全性) |
PQCDSME |
QCD+P:Products(品種)+Safety(安全性)+Morale(やる気)+Environment(環境) |
QCDの3要素だけでなく、他の要素をプラスして経営戦略や生産管理に活用するケースもあります。
企業によって重要視する要素は異なるため、自社に必要な項目を見極めて、取り入れることが大切です。
QCDが製造業において重要な要素である理由
QCDは、さまざまな業界で生産管理に利用されていますが、特に製造業において重要な指標です。
QCDは各要素が独立しているのではなく、下記の図のように密接な相関関係を持っています。
製造コストが低いと、納期遅れや品質の低下につながるリスクがあり、無理に納期を早めようとすると品質の低下やコストアップにつながる可能性があります。
上記のように、QCDの各要素は互いに影響を及ぼすため、すべての要素を考慮することが大切です。
QCDすべてを一元管理すれば、事業に好影響を与えられます。
次のような理由から、特に製造業ではQCDが重要視されています。
- 商品の品質と利益率を改善できる
- 生産プロセスを最適化できる
- 顧客満足度の向上につながる
それぞれの理由を確認して、QCDを向上させる取り組みに注力しましょう。
商品の品質と利益率を改善できる
品質を向上させれば顧客獲得が円滑に進み、コストを削減することで利益率を向上できます。
顧客獲得や利益率の低さが課題の企業にとって、QCDの改善は課題を解決する打開策として有効です。
また製造業において、品質の良い製品を製造し余分なコストを削減する品質管理が重要になるため、QCDの改善が求められます。
生産プロセスを最適化できる
品質やコストだけでなく納期(Delivery)も改善することで、生産プロセスを最適化できます。
納期に合わせた生産活動を行うために、各工程の作業手順や属人化している業務を見直すことが大切です。
業務の属人化解消や作業手順の改良により、生産スピードを向上させましょう。
顧客満足度の向上につながる
QCDは、顧客満足度の向上につながる重要な指標です。
品質の高い製品を納期どおりに提供すると、クライアントの信頼性が高まります。
高品質な製品を納品することで、継続的な取引につなげられるため、企業の業績を向上させられます。
また顧客満足度が高まると、良い口コミや評判が流れるため、社会的な企業イメージを向上させることが可能です。
QCDのバランスを決める際のポイント
品質、コスト、納期のうち、どの要素を優先するべきかは企業によって変わります。
自社に適したバランスでQCDを伸ばすために、次のポイントを押さえておきましょう。
- 品質(Quality)を最優先にする
- コスト(Cost)と納期(Delivery)は顧客ニーズや市場の状況に合わせる
- 製造現場に配慮する
品質(Quality)を最優先にする
QCDのバランスを決める際は、品質(Quality)を最優先にすることが大切です。
なぜなら、どれだけコストを削減して納期どおりに納品しても、品質が低いと顧客満足度が低下するからです。
顧客満足度の低下は、企業の業績悪化につながるため、QCDの3要素でQ(品質)を最優先しなければなりません。
まずは品質を向上させることを優先的に考え、QCDをバランス良く改善しましょう。
コスト(Cost)と納期(Delivery)は顧客ニーズや市場の状況に合わせる
品質(Quality)を最優先にした上で、コスト(Cost)と納期(Delivery)はお客さまニーズや市場の状況に合わせて優先順位を決めましょう。
例えば、クライアントから納期が指定され、急がなければならない場合は、納期(Delivery)を優先する必要があります。
予算がすでに決定していて、費用をかけられない場合は、コスト(Cost)を優先するべきです。
品質(Quality)を最優先に確保した上で、顧客ニーズや市場の状況に合わせて、コスト(Cost)と納期(Delivery)のバランスを調整することが大切です。
製造現場に配慮する
QCDは経営的観点だけでなく、製造現場に配慮してバランスを決める必要があります。
経営層がQCDを改善する施策を考案しても、実際に施策を実行するのは製造現場です。
例えば、納期(Delivery)より早く納品するようスケジュールを調整すると、長時間労働や休日出勤など製造現場に負担がかかる場合もあります。
事業の継続性の観点から、製造現場に過度な負担がかかるような施策は実施するべきではありません。
QCDのバランスを決める際は、クライアントや市場ニーズなど外部要因だけでなく、内部要因である製造現場にも配慮しましょう。
QCDを改善する際の手順
QCDを改善する際の手順は、次のとおりです。
- 現状の課題を把握する
- 改善策を立案する
- 改善策を実施する
- 効果検証する
各手順を押さえて、QCDを改善するための施策を考案しましょう。
1.現状の課題を把握する
QCDを改善するためには、まず現状の課題を把握する必要があります。
現在どのような課題が生じているのか、現場の意見と経営者の目線で対処するべき課題を明確化することが重要です。
製造工程における課題は、現場担当者がもっとも熟知しているため、製造現場で課題をヒアリング・モニタリングしましょう。
また生産管理システムなどを活用すれば、データ上で作業者が気づかない課題を見つけられるケースがあります。
現状の課題を把握するために、次のようなデータを集計・分析しましょう。
項目 |
活用できるデータ例 |
品質(Quality) |
返品数、不良発生件数、クレーム件数、再加工数 |
コスト(Cost) |
設備稼働率、在庫回転率、原材料廃棄率、人時生産性、残業時間 |
納期(Delivery) |
納期遅延件数、製造リードタイム、欠品率 |
2.改善策を立案する
現状の課題を把握できた後は、改善策を立案する必要があります。
複数の課題が見つかった場合は、予算と投資することで得られる効果のバランスを考えて、解決するべき優先課題から取り組みましょう。
改善策を立案する際は、「SMARTの法則」を活用すると効果的な施策を考案しやすくなります。
「SMARTの法則」は、次の頭文字を取った目標設定やプロジェクト管理の基本原則です。
- Specific:具体的に
- Measurable:計測可能な
- Achievable:達成可能な
- Relevant:関連性のある
- Time-bound:期限が明確な
上記のポイントを押さえると、施策実行後に効果を計測して評価できます。
施策が具体的でデータなどを活用して計測できる内容であれば、効果を可視化できます。
さらに達成可能な施策であれば、現場の従業員も能動的に取り組みやすくなるでしょう。
3.改善策を実施する
課題を解消する改善策を考案したら、実際に実施しましょう。
改善策を実施する際は、後ほど効果を測定するために目標数値や評価指標を定めておくことが大切です。
また施策を実施する期間が明確であれば、従業員が能動的に取り組みやすくなります。
QCDを改善する施策を実施する前から、従業員に内容を周知して協力してもらう体制を整えましょう。
4.効果検証する
改善策を実施するだけでは、QCDを改善できません。
ステップ3で実施した施策の効果を検証して、QCDが改善されたか評価しましょう。
改善策を実施しても、思いどおりの効果を得られない可能性があります。
QCDを改善するためには、PDCAサイクルを回して繰り返し施策の実施と改善を行うことが大切です。
PDCAサイクルとは、次の頭文字を取った品質管理の手法です。
- Plan(計画)
- Do(実施)
- Check(評価)
- Action(改善)
上記の4プロセスを繰り返すことで、継続的に品質改善します。
QCDを改善する4ステップを繰り返すことで、より効果的な施策を考案・実施し、QCD全体をバランス良く改善できます。
QCDを改善する具体的な方法
QCDを改善する具体的な方法は、次のとおりです。
- 5S
- QC7つ道具
- PDCAサイクル
- 生産管理システム
上記は一例ですが、QCD改善に効果的な手法です。
各施策の特長を確認して、自社でQCDの改善策を考案する際の参考にしてください。
5S
製造業でQCDを改善する施策として、5Sが効果的です。
5Sとは、製造業でよく使用される職場環境を改善する施策です。
5つの「S」を徹底することで、働きやすい職場環境を整備し、生産性を向上させられます。
5Sの構成要素 |
意味 |
整理 |
必要なものと不要なものを区別し、不要なものは処分する |
整頓 |
必要なものを決められた場所に用意し、表示する |
清掃 |
職場や道具・設備を綺麗に保つ |
清潔 |
整理・整頓・清潔を徹底し、常に状態を維持する |
しつけ |
清潔な状態を保てるよう習慣化する |
5Sを徹底できていない製造現場では、不良や事故が発生しやすく生産性の低下へとつながります。
また不要なものが多い場合は、生産プロセスが非効率になり余分なコストが発生するため注意が必要です。
必要なものが決められた場所に用意されていない場合は、道具を探す手間と時間がかかり、生産活動が遅れてしまいます。
QCDを改善するためには、5Sの徹底が必要であり、業務効率化と従業員の意識改革が求められます。
QC7つ道具
QCDの改善には、QC7つ道具の活用が効果的です。
QC7つ道具とは、生産工程や品質に関するデータを活用して、統計的に品質管理を行う手法を指します。
次の7つのツールを活用することから、QC7つ道具と呼ばれています。
ツール名 |
概要 |
パレード図 |
大きな要因に絞って重要な改善点を導き出す |
特性要因図 |
特定の結果と要因の因果関係を階層構造で示す |
グラフ |
データをグラフ化し視覚的にわかりやすくまとめる |
ヒストグラム |
データを等分して工程ごとのバラつきを可視化する |
散布図 |
横軸と縦軸で2項目の数値を分析し、因果関係を特定する |
管理図 |
品質のバラつきを時系列で表し、工程を安定化させる |
チェックシート |
項目ごとに点検や記録を行う |
QC7つ道具を活用すれば、生産工程と品質を可視化することが可能です。
また新QC7つ道具と呼ばれる品質管理手法もあり、QC7つ道具と同じくQCDの改善に活用できます。
新QC7つ道具で活用するツールは、次の7つです。
ツール名 |
概要 |
親和図法 |
特定の課題から収集した言語データを親和性の高いもの同士でグループ化する |
連関図法 |
複雑化した課題の原因について因果関係を論理的につないでいく |
系統図法 |
目的と手段を系統づけて対策を整理する |
マトリックス図法 |
ExcelやSpreadsheetなどの「行」や「列」に課題と要因を並べて、対応関係を整理する |
アローダイアグラム |
業務内容と日程の流れを図に示す |
PDPC法 |
目的達成までの不測の事態に対応する代替案を図に記す |
マトリックスデータ解析法 |
マトリックス図法で行・列に配置したデータを二次元平面図に変換する |
各ツールを活用した品質管理により、製品の品質・コスト・納期を最適化し、QCDを改善できます。
PDCAサイクル
先ほど「QCDを改善する際の手順」で解説したPDCAサイクルも、QCDを改善する効果的な手法です。
繰り返し施策を考案・実行・効果検証することで、QCDを一元的に向上させられます。
なおPDCAサイクルを効果的に回すためには、次のポイントを押さえておきましょう。
- 目標は数値で設定し、具体的な計画を立てる
- 計画どおりに施策を実行する
- 無理のない計画を立てる
- 定期的に評価・進捗確認する
PDCAサイクルを回して、少しずつQCDを向上させるために、無理のない改善計画を立てて定期的に進捗確認・効果測定しましょう。
生産管理システム
生産管理システムは、QCD改善に役立ちます。
システム上で生産工程や製品の品質、生産活動にかかったコストや納品スケジュールを管理できるため、QCDすべてを一元管理できます。
従業員の勘やコツに依存していた業務をデータ化し、一定の品質を担保できるよう業務改善できるため、属人化の防止にもつながります。
また余分な作業手順や工程、不良率の多い作業をデータで可視化できるため、生産性を高める施策を考案しやすいです。
QCDを改善したい場合は、生産管理システムを導入して自社の課題を明確化しましょう。
改善するべき課題が明確化すれば、PDCAサイクルを回してQCDの向上につなげられます。
QCDを向上させるため生産管理システムの導入を検討しよう
QCDを向上させたい企業は、生産管理システムの導入を検討してみましょう。
生産管理システムを導入すれば、生産工程や製品の品質・費やしているコストや納品スケジュールを可視化できます。
QCDを改善するには、まず現状の課題を把握し、改善策を立案・実施する必要があります。
生産管理システムによって、生産工程の不良率や作業時間・クレーム件数・再加工数を可視化すれば、改善するべき課題の優先順位をつけやすいです。
QCDを低下させている要因を特定できるため、スムーズに改善策を立案できます。
またデータをシステム上で数値化できるため、施策の効果を測定しやすく、PDCAサイクルを効果的に回せます。
QCDは製造業において重要な指標となるため、生産管理システムを導入して改善しましょう。