はじめに 〜 今、なぜBOMが問題なのか
最近、「データ・ドリブン経営」という言葉を、ときどき耳にするようになりました。「製造業DX」について語る人も、増えてきているようです。 そして「スマート工場」という用語も、もう何年も前から話題になっています。

 これらの言葉が実際に何を指すのかについては、必ずしも意見が定まっていません。
ただ共通するのは、これからの製造業ではデータが非常に重要になる、ということです。 もちろん、製造業がこれまで、データを無視してきた訳ではありません。設計図は今や、多くがCADデータでしょうし、製造指図も生産実績も、多くの企業では生産管理システムの中に、データとして記録されているはずです。品質検査記録から、サプライヤーとの発注・入荷、製品の出荷実績に至るまで、ほとんどは手書き伝票でなく、情報システムで管理しているでしょう。

 ならば、なぜ今更「データが大事」という標語が叫ばれるのでしょうか。

こういうケースを考えてみてください。顧客からある日、納入した製品に関する品質のクレームが入りました。一大事です。
品質検査記録を調べ、納入製品が、どの製造ロットに属しているかを、さかのぼって確定しなければなりません。
次に、品質不良の原因探しです。一体どの工程で、誰が、どの機械やツールを使って、どんな製造条件で、それを作ったのか。
さらに、同じ製造ロットで作られた部品が、どれとどれの製品に含まれていたかを、割り出さなければなりません。
品質トラブルの起きる可能性のある製品は出荷を止め、既に納入している場合には、顧客に連絡して頭を下げる必要があるからです。
この品質トレーサビリティ問題は、どこの工場でも起きる可能性のあることですが、皆さんの職場では、この作業をスムーズに、
短時間で行うことができるでしょうか? 品質検査記録、出荷台帳、製造指図台帳、部品表、製造日報、出荷記録など、
様々な種類の台帳を追いかけなければならない企業も、少なくないでしょう。

もう一つ例を挙げてみます。あるサプライヤーに発注していた部品の納期が、急にひどく遅れると連絡が入りました。
世界的にサプライチェーンが混乱している昨今、起きがちな事象です。
では、当該部品が使われる予定の製品は、どれとどれか。そのうち、現在すでに製造に着手しているものは、どこまで作業が進捗しているのか。
それぞれ最終的な納期は、いつになりそうか。こうした問いにすぐ答えるためには、受発注データ、部品表、製造指図データ、製造日報、工程別の作業進捗等が、きちんとタイムリーに、つながり良く整理されている必要があります。

実はこの「タイムリーに、つながり良く」が、「データが大事」との標語のポイントなのです。
データの分析・活用においては、網羅性・関連性が重要だからです。発注記録は発注システムのサーバにあり、品質記録は検査システムのPCの中、生産スケジュールや進捗率は誰かのExcelの表の中、といった状況では、問題に俊敏に対応することができません。

それでは、製造業における多種多様なデータの「つながり」の中心、いわば統合のハブにあたるのは何でしょうか。それが「部品表(BOM)データ」であるという事を、これからの一連の記事でご説明したいと考えています。
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