システム化によりデータ管理を一元化
静岡県浜松市に本社を置く株式会社小楠金属工業所は、自動車やオートバイ、トラクターなどの部品の製造を中心に事業を展開している。同一製品を大量に製造するロット生産と、多品種少量生産、両方の製造ラインを持つ同社が取り扱う製品は6000品目にも及ぶ。それだけに製品情報の管理や受発注などの業務が煩雑で、10年以上も前から全体的なシステム化を推進してきた。生産管理をはじめ、製品情報管理、会計など、システム化した業務範囲は幅広く、それぞれに効果をあげている。
「以前は、帳票類や設計図などの技術文書、すべてが紙ベースで動いていました。しかし、顧客満足度を高めるための業務の効率化や、コストの削減を目指し、システム化に踏み切ったのです」
そう語るのは開発部開発課兼業務本部生産管理改革室課長の杉山 忍氏だ。実際にシステム化により、年間500万円の業務工程の削減に成功したという。
さらに、同社がこれまでのノウハウを結集して独自に開発した部品製造機器に関しては、受注から見積もり、在庫や納品日程の管理、出荷までをトータルで管理できるシステムを導入している。
その効果は、「システム化していなければ、業務管理には現状の2倍の人員が必要になっていたと思います」(杉山課長)というほどだ。
だが、その利点は業務効率の向上だけにとどまらない。
製造業では、製造に必要な部品、資材の発注のタイミングや量などを、熟練の技術者が自分の経験から判断している場合が少なくない。しかしそれでは、その技術者が退職した場合などに、それまでと同じ条件での納品が難しくなってしまう危険がある。
しかし、システム化で業務の標準化が実現し、誰もが一定の水準で発注業務を行えるようになった。
社員の意見を取り入れシステムの完成度を高める
様々な成果があがるなか、同社では、現場の社員の意見を反映しつつブラッシュアップを重ね、システムの完成度を高め続けている。各社員が改善提案を行えるよう、システムに、改善案を申告するための機能も組み込んでいる。
だが、いくら要望があっても、「作業が面倒くさい」という理由だけでは、予算を割いてシステムを変えることはない。本当に効率化につながるかを検討するために、提案の際には、1か月に何時間の業務を削減でき、その結果、いくらのコスト削減につながるのかを試算する項目に具体的な数値を記入して提出することになっている。
例えば以前「各製品の取扱説明書の保管場所を、システム上で検索できるようにしたい」という要望があった。これも申請した社員自ら試算を行い、月間約100分の作業時間の短縮が見込めると算出した。実際に希望の機能を追加した結果、月間約330分の作業短縮、約2万円のコスト削減が実現でき、試算以上の効果が得られているという。
こうした取り組みにより、現場の社員一人ひとりが、高いコスト意識を持つようになったという。
「現場で培ったノウハウを生かしながら社内のIT化が進んでいくため、社員のモチベーションも向上しています」(杉山課長)
2009年4月からは副資材の発注システムも一新した。
以前は、同時に複数の部署での使用ができず、待ち時間が出てしまうなど、タイムリーな発注が難しかった。また、発注した部署しかデータを確認することができなかったため、在庫が重複してしまうなどの問題も抱えていた。
「それを解決するためには、データを一元化し、社内で情報を共有することが必要でした。システムの刷新により、問題解決を図るとともに、稟議がおりるまでの時間を短縮することもでき、社内での評価は上々です」(業務本部生産管理改革室 主任補 神谷 昌宏氏)
利益向上を狙える体質を目指し、組織を改革
現状に甘んじることなくシステムの見直しを図り、さらなる効率化、コスト削減へのチャレンジを続ける同社では、今年9月から新たな試みを開始した。システム改善に対応するための専任の部署として、杉山課長らが在籍する業務本部生産管理改革室を新設したのだ。
多くの企業では、システム化を推進する際、プロジェクトチームなどをつくるが、それはあくまでも時限的なものであることがほとんどだ。同社でもこれまでは、改善案が出るたびにそれに対応するプロジェクトチームを立ち上げていた。
「しかし、それではスピーディかつ高品質な改善は実現できません。利益向上を狙える企業体質を強化するために、さらにIT化を推進しようと専任部門を設置することになったのです」(杉山課長)
今後は、1年間で「改善効果金額1000万円実現」「顧客満足度100%の達成」を目標に掲げ、システムを精査していく方針だ。
社員一人ひとりのたゆまぬ努力と、システムを徹底活用しようとする前向きな姿勢がある限り、同社の各システムは、今後も確実に進化を遂げ続けて行く。