佐藤 知一 氏 BOM講座
~今、なぜBOMが問題なのか~

筆者のご紹介

佐藤 知一(さとう ともいち)氏

日揮ホールディングス株式会社
チーフ・エンジニア(Business Analyst)

グループ経営企画部国内外の製造業の情報化にかかわるシステム分析とプロジェクト・マネジメントに従事。
専門は生産計画とスケジューリングだが、他にSCM・MES・BOM
など幅広い守備範囲で業務。

経歴

1982年 日揮株式会社入社。
1985-86年 米国East‐West Center客員研究員。
2001-02年 仏Technip社に駐在。電子調達サイトepc-business.com オペレーションマネージャー
2007-11年 プロジェクトマネジメントオフィス相当部門において、社内プロジェクトを支援。
2011-19年 経営企画部門およびIT企画部門において、IT戦略立案をリード2020年より現職。
2010年6月 「リスク確率に基づくプロジェクト・マネジメントの研究」により学位取得。 筑波大学教授(グローバル教育院)、静岡大学客員教授(MOT)、東京大学非常勤講師、工学博士・PMP

著書:「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」(技術評論社)「時間管理術」(日経文庫)、「BOM/部品表入門」(共著・JMAM) 他

コラム

  • 第十一回 原価管理のためのBOM ~ おわりに

    製造業における原価管理の重要性については、今さら説明の要はないと思います。会計上、 当期製品製造原価は、次の式で計算されます。

    当期製品製造原価=当期製造総費用-当期仕掛品在庫増 =当期製造総費用+(期首仕掛品在庫高-期末仕掛品在庫高)

    したがって製造原価を求めるためには、当期の製造行為にかかった費用すべてと、仕掛品在庫の増減を調べなければなりません。
    仕掛品在庫の増減の把握は、工場における在庫管理業務の一環です。棚卸しによる全数カウントを行なうか、あるいは一部は受け払い記録をもとに理論在庫を求めるか、いずれにせよ数量は把握できるはずです。仕掛品の評価額についてはあとで述べます。

    問題は製造費用の把握です。製造費用は原価計算においては下記の3種類に分類されます。
    続きをダウンロードして読む
  • 第十回 設備保全のためのBOM

    生産活動においては、機械設備・工具・金型・治具など、さまざまな道具立てを活用します。こうした製造作業に活用されるモノは、作業中は占有されますが、作業が終わると解放され、他の作業に再利用されます。その点で、作業が終わると消費される部品・材料類と、性質が異なります。
    こうした、設備に代表される、繰り返し使う種類のものを、製造資源(Manufacturing resource)と呼びます。経営資源の一種ということになります。
    ものづくりに用いる部品・材料類のリストを、BOM = Bill of Material(部品表・材料表)と呼ぶのに対し、上記のような製造資源のリストを、BOR = Bill of Resource(資源表)と呼びます。

    なお、働く人も、重要な経営資源の一部です。このため、英語ではHuman resourceと呼ぶわけです。日本語では従来、人材という言葉が使われてきましたが、近年になって「人は材料でなく財産だ」という意図を表すために、人財という漢字が用いられるようになってきたことはご承知のとおりです。働く人のリストも、定義としてはBORの一部になりますが、ここでは主に機械設備類のBORについて、ご説明します。
    続きをダウンロードして読む
  • 第九回 アフターサービスのためのBOM

    わたし達が市場で製品を買うと、それに『ロット番号』が表示されていることがよくあります。たとえばペットボトルの飲料などが、よい例です。こうしたロット番号は、通常の場合、消費者にとってあまり用のないものに思えます。
    しかし万が一、製品に不良が見つかった場合、メーカー側はアフターサービスのために、購入したお客様に連絡し、あるいは返品・交換などの作業をしなければなりません。 もしもロット番号が一切付番されていなかったら、売った製品全てを返品サービス対象にしなければなりません。その点、不良の生じた可能性のあるロット番号が特定できれば、サービス範囲を狭めることができますし、あるいは流通段階で出荷を止めることもできます。したがって、ロット番号はアフターサービスにとって、非常に重要です。

    ところで、そもそもロットとは何でしょうか。英語でLotとは、ひとまとまりのことを言います。では、マテリアルの「まとまり」は、いつどこで誰が決めるのでしょうか? 飲料などではよく、製造日単位でロット番号がとられていますが、じつは便宜的な区分に過ぎません。
    続きをダウンロードして読む
  • 第八回 販売のためのBOM

    自動車やPCに代表される消費者向け機械・電機製品の業界では、標準モデルに追加できるオプション仕様を用意することが、広く行なわれています。たとえば自動車であれば外装の色、インテリアの仕上げ、変速がマニュアルシフトかATか、エアバッグの装備、搭載オーディオ機器のグレードなどなど、かなりの種類のオプションを選べます。
    このようなオプションが導入されたのは、多様な消費者ニーズに柔軟に対応するためです。単一モデル販売では競争に勝てないため、さまざまなオプションをつけることによって、消費者の細かな好みに合わせていく訳です。

    ところで、オプションを有する製品のBOMは、どのように取り扱ったらよいでしょうか。オプションが多数あればあるほど、実現可能な最終製品(End Product)の数は掛け算で増えていってしまいます。

    たとえば、自動車のオプションが次のようにあったとします。
    続きをダウンロードして読む
  • 第七回 物流のためのBOM

    物流業務においてBOMを考える際、とくに工場と独立した物流センターでの業務においては、SKU(Stock Keeping Unit)という概念を理解する必要があります。SKUとは、文字通り個別に保管する品目のことを指します。
    たとえばアパレル業界などでは、同じモデル(デザイン)の衣服でも、色違いやサイズ違いのバリエーションが多数存在します。サイズ違いについては、シャツならば首周りと袖丈の組合せだけで、何十通りもできてしまうのが常です。こうした品目は、モデルが同じである限り価格も同じで、ふつう同一の商品コード(JANコード)を付番します。しかし、流通上は別物として区別しなければいけません。したがって、一つの品目が複数のSKUとして取り扱われます。

    別の例をあげましょう。日用雑貨品業界などでは、同じ製品でも入り数をかえて複数のパッケージをつくります。製造側のマテリアル・マスタ上では、製品は単一の品目として扱われるかもしれません。しかし、販売物流の世界では、異なる入り数の商品は、別物としてハンドリングする必要があります。
    シート・薄板など反物の場合も、ロール単位と、2m等の定尺に切ったものでは、流通上、区別しなければなりません。このように、保管・輸送などの物流にまつわる作業(これをマテリアル・ハンドリング、略してマテハンと呼びます)では、たとえ同一の品目であっても数量や包装形態によって、別物と認識する必要があります。これをSKUと呼ぶのです。

    さて、物流センターの仕事は実際には多岐にわたっており、大規模なセンターの業務は事実上、工場と変わらないところもあります。とくに「物流加工」と呼ぶ作業の比重が増えているのが最近の傾向でしょう。
    物流加工とは、工場の外に出てから行なう加工のことです。これは、大きく分けて3種類あります。
    続きをダウンロードして読む
  • 第六回 製造のためのBOM

    「BOMとはマテリアルの数量的な関係を示した一覧表である」と、第一回でご説明しました。この定義に従えば、資材倉庫から製造現場に部品材料を払い出す際に用いる、ピッキング・リストもBOMの一種であることがわかります。こうしたピッキング・リストは、製造オーダー(製造指図)に付随して発行されるのが通常です。
    ところで、この製造オーダーとBOMの関係を子細に見ていくと、いわゆる『E-BOMとM-BOMの乖離問題』が、しばしば浮かび上がってくるのです。設計部門がつくる部品表(E-BOM)に対し、製造側の部品表(M-BOM)が社内に別途存在し、両者が二元管理状態ないし乖離していく現象が、非常に多くのケースで見られます。

    E-BOMとM-BOMが乖離していく理由はいろいろあります。たとえば、サプライヤー側の事情で、設計上指定された資材が手に入らず、やむなく工場で代替品を使いはじめ、それが恒常化していく場合があります。あるいは設計変更が行なわれたが、ストックを無駄にしたくないため、古い資材を使い続けている場合もあります。
    逆に、資材の側はすでに性状が進歩しているにもかかわらず、設計の方がそれを反映していない場合もありそうです。さらには、複数購買をしているけれども、購入先によって全く同じ資材が供給されていない場合。設計に過剰なマージンや曖昧さがあって、使用すべき資材にいろいろな選択肢がある場合、等々・・。設計部門と製造部門で、同一品目に対して異なるマテリアル・コードを使っているケースも、ときどき見受けられます。

    こうしてE-BOMとM-BOMが別々に一人歩きをはじめると、あちこちで歪みがでてきます。資材在庫の計画と実績があわなくなるかもしれません。出荷した製品のパーツが設計と異なっていて、アフターサービスができなくなることも考えられます。設計変更が製造現場に正しく伝わらなくなる。製造原価計算が混乱するかもしれません。
    続きをダウンロードして読む
  • 第五回  在庫管理のためのBOM

    第三回「工程設計のためのBOM」では、BOMの基盤となるマテリアル・マスタに登録するべき品目とは、『在庫品として数量を管理すべきもの』だとご説明しました。 理由は単純です。在庫管理をITシステムで行う場合には、品目コードと保管場所がキーとなった在庫テーブルを維持する必要があるからです。マテリアル・マスタに品目コードの登録がなければ、その在庫数量を入力することができません。

    ところで、ここでしばしば問題になりがちなことがあります。それは同一性の問題、すなわち、「2つの品目が同一であるかどうか」、ということに関する議論です。そんなことは自明ではないか、と思われるかもしれませんが、じつはかなり奥の深い問題なのです。
    わたしがよく使う例をとりましょう。1Lの牛乳パックと2Lの牛乳は同じものか、違うものでしょうか。低脂肪乳と無調整乳は、別物か。十勝産と岩手産は区別すべきか? みなさんがレストランの仕入係だったら、どう考えますか。
    牛乳の産地や製造方法は、ある意味では牛乳という品目の品質をきめる「属性」に思えます。味に大差がない限り、コップに注いでお客の前に出してしまえば同じですから、品目としての区別はいらないと考えるでしょう。

    ところが、みなさんがもしチーズ工場の資材係だったら、両者は大違いです。製品の出来に直接影響します。品質の差では済まない。低脂肪乳と無調整乳は別物と考えるでしょう。
    いったい、牛乳の調整方法は属性項目に書くべき事柄なのか、それとも品目分類の基準として縦に書くべきなのか。そもそもマテリアルの区分と、属性の区分はどこで切り分けるのか?

    答えは、「利用目的によって違う」です。マテリアルの同一性とは、「使用目的に照らしてキーとなる属性群が、同一の条件を満たしていると認められるマテリアルの集合である」と定義されます。同一性は、使用目的と、属性群の定義と、条件付けによって、異なるのです。
    続きをダウンロードして読む
  • 第四回 計画とスケジュールのためのBOM

    前回の記事でご紹介した「ストラクチャー型BOM」(構造型部品表)は、もともと1960年代から70年代にかけて、米国で考案され発達した概念です。米国ではその当時、MRP = Material Requirement Planning(資材所要量計画)と呼ばれる新しい生産管理手法が、コンピュータの発達とともに登場していました。
    MRPは製品単位の需要量を、部品単位の生産スケジュールと購買手配に結びつけるために生まれたものです。それ以前の米国では、製品や中間部品はロット生産を行い、資材手配は発注点管理が普通でした。各製品がずっと同じペースで売れていくなら、これでも良いでしょう。

    しかし製品の需要が変動するのに、お構いなしにロット生産や購買を続けていけば、工場の中は余計な在庫で溢れかえります。MRPはこの問題を解決し、必要なものを必要なタイミングに、必要な数量だけ生産することを目的に開発されました。 図4-1をご覧ください。これは製品Sというスピーカーのストラクチャー型BOMを示したものです。各段階の部品の親子関係は、それぞれ員数と工程で結び付けられています。そして各工程(正確には、複数の作業からなる場合もあるため「工順」=ルーティングとよばれます)に、標準リードタイムが設定されます。
    続きをダウンロードして読む
  • 第三回 工程設計のためのBOM

    前回の記事で、設計部品表E-BOMと購買部品表P-BOMは、ともにフラットなサマリー型BOMだとお話ししました。サマリー型BOMは部品購買と積算(標準原価計算)に有用です。しかし、親製品と子部品の2階層だけで表現しているため、様々な部品が、どのような加工を経て、またどのような順序で組み立てられていくのかについては、分かりません。いいかえると、サマリー型BOMは製造のプロセスを表現していないのです。

    製造のプロセスを表現するには、原材料や購入部品から最終製品に至る複数の階層を表現した、ストラクチャー型BOMが必要です。ストラクチャー型BOMは、どの購入資材から何の製品を、どういった工程順序で作っていくのか、体系立てて表現したものです。

    冷し中華の例でいうならば、上にのせる錦糸玉子の原料は、生卵と砂糖と酒少々です。まず生卵に砂糖と酒を加えて、油をしいたフライパンで薄く焼き、包丁で細切りにして、錦糸玉子ができあがる訳です。ストラクチャー型BOMの階層構造は、こういった材料の途中段階の順序(別の見方をすれば工程順)を表現します。

    設計部門がE-BOMを作成し、購買部門がP-BOMに展開した後、階層構造の形で製造工程の情報をつけ加えたストラクチャー型BOMを、製造部品表M-BOM(Manufacturing Bill of Material)と呼びます。製造工程を最初から最後まで知っていないと、M-BOMは作成できません。
    続きをダウンロードして読む
  • 第二回 購買のためのBOM

     日本の大手メーカーは、自社内で最終組立てと検査のみを行い、部品は全てサプライヤーから納入してもらう形態が、少なくありません。そうした企業では、設計部品表E-BOMがほぼそのまま、外部から購入する部品リストになります。しかし自社内で部品加工を行うメーカーもあります。そうした企業にとって、上記の形態のE-BOMのままで、買い物リストに使うわけにはいきません。
     E-BOMとは、料理のレシピにたとえるならば、最終形の料理を構成する材料や中間品のリストにあたります。冷し中華1人前の材料は、中華のゆで麺1玉と、錦糸玉子50gと、キュウリ30g、チャーシュー50gに、たれ70cc・・という具合です。料理は一種のものづくり=製造業務ととらえることができますが、E-BOMは料理の「最終組立工程」における、親製品と子部品との関係を示したものです。

     ところで、錦糸玉子は冷し中華の上にのせる直接の材料(部品)ですが、それ自体をスーパーから買ってくることは、普通しません。錦糸玉子は生卵に砂糖とお酒を加えて、薄く焼いて作ります。ですから、スーパーでは、錦糸玉子の原材料である生卵と砂糖とお酒を調達するはずです。
     工場も同様です。E-BOMに指定された部品類は、加工する前の原材料を調達しなければなりません。したがって購買部門には、設計部品表E-BOMを原材料の形までさかのぼった、別の形の表が必要になります。これを購買部品表P-BOM(Procurement BIll of Material)と呼びます。P-BOMは料理のレシピにある材料表に相当します。
    P-BOMも、親である最終製品の下に、子である原材料・購入部品が並ぶ、2階層のフラットなBOMの形になるのが普通です。

    続きをダウンロードして読む
  • はじめに 〜 今、なぜBOMが問題なのか

    最近、「データ・ドリブン経営」という言葉を、ときどき耳にするようになりました。「製造業DX」について語る人も、増えてきているようです。 そして「スマート工場」という用語も、もう何年も前から話題になっています。

     これらの言葉が実際に何を指すのかについては、必ずしも意見が定まっていません。
    ただ共通するのは、これからの製造業ではデータが非常に重要になる、ということです。 もちろん、製造業がこれまで、データを無視してきた訳ではありません。設計図は今や、多くがCADデータでしょうし、製造指図も生産実績も、多くの企業では生産管理システムの中に、データとして記録されているはずです。品質検査記録から、サプライヤーとの発注・入荷、製品の出荷実績に至るまで、ほとんどは手書き伝票でなく、情報システムで管理しているでしょう。

     ならば、なぜ今更「データが大事」という標語が叫ばれるのでしょうか。

    続きをダウンロードして読む