製造業は、収益の低い業界だと言われています。営業利益が黒字だとしても、収益が低い状態だと、成長への取っ掛かりを失ったり製品の価格競争に陥ったりとさまざまな弊害があります。収益改善を行うことができれば、安定的に成長し、挑戦意欲の高い企業風土を作ることも可能です。今回は、製造業の収益が低い現状や、収益改善を行うための4つのステップについてご紹介します。
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製造業は収益が低い?
「長く営業を続けられているから」、「これまでの方法でどうにかなってきたから」と停滞的な思考でいると、何かのきっかけで収益が大きく落ち営業利益率がマイナスになってしまうかもしれません。特に製造業は、廃業や規模の縮小につながるようなリスクに多くさらされています。
例えば、働き手の減少による人員不足、事業継承の鈍化があります。日本では少子高齢化が急速に進んでおり、生産年齢人口の減少は深刻です。日本の製造業は生産性が低いため国際競争力にも弱く、人材の確保は喫緊の課題です。また、業界の特性上、災害の影響を受けやすいというリスクもあります。
このようなリスクがある中で、製造業に携わる企業の多くは営業利益率が低く、低収益の状態だと言われています。特にアメリカやドイツと比べたとき、低収益なだけでなく、大企業よりも中小企業の利益率に大きな差があるという特徴があります。収益が低いと成長のための投資が滞るばかりか、そもそも企業風土として低収益を容認する空気が当たり前になってしまう可能性もあります。低収益の状態が続いている企業は、すぐにでも収益改善に取り組むことが大切です。
製造業の収益改善を実現する4つのステップ
製造業で収益改善を実現するには、例えば以下の4ステップをベースに進める方法があります。
1.収益改善ポイントの整理
収益改善を目指すには、まずどのポイントから手をつければいいのかを整理します。
まず見るべきは、どの「利益」が減少しているかという点です。売上高が落ちている場合は、営業力が低下している可能性や、顧客数が減少している可能性、製品が市場とミスマッチしている可能性などがあります。売上高から変動費を差し引いた限界利益が減少している場合は、材料費や外注費が増加している可能性があります。売上高から変動費と固定費を差し引いた営業利益が減少している場合は、人件費の増加などを疑いましょう。
収益の内容を整理してみると、収益を悪化させている原因は複数に渡っている可能性もあります。また、売上高は上がっているのに営業利益が下がっているというような状況も考えられます。自社は現在どこに課題があるのかを見極め、優先して改善するべきポイントを絞って取り組むことが大切です。
2.売上高の増加
売上高が落ちている場合は、その増加を目指します。改善に有効な方法は、例えば営業力の強化や付加価値の創出、マーケティングの見直しなどがあります。
営業力の強化では、量と質の両方の面から見直しを行います。量の面では、営業マンそれぞれの行動の点検が有効です。詳細な日報を書きやすい営業日誌のフォーマットを用意して毎日の行動をきちんとまとめてもらう他、SFA(営業支援システム)を導入して各営業マンの行動や実績をPC上で可視化する方法もあります。質の面では、各営業マンの能力の棚卸しを行い、どの能力が足りていないのかを明確にした上で一人ひとりに合わせた育成を行います。SFAは、質の面を向上させるためにも活用できます。
付加価値の創出では、自社が請け負える製造のレベルをなんらかの方法で上げます。例えば、同じ作業でも技術力を高め、他社では実現できないレベルのクオリティを実現することで付加価値が上がり、売上高の増加につながります。現在請け負っている作業の前後の工程を取り込み、製造における「できること」を増やすことも有効です。
自社で製品の企画や開発も行っている場合は、マーケティングを見直すことで売上高を改善できる可能性があります。顧客のニーズは常に変動するものであるため、常に顧客の声を収集し、製品に反映したり次の主力製品を開発したりする必要があります。ここを怠っていると、今まで売れていたものが急に売れなくなることもあるため、マーケティング部門の強化も有効です。
3.変動費の削減
限界利益が減少している場合は、変動費が増加している可能性が高いと言えます。変動費の中でもどこが圧迫の原因になっているかを探り、改善を図っていきます。
材料費は、増加しやすい変動費のひとつです。さまざまな条件により材料の仕入れ値は変わるため、常に相場や他の材料の値段をチェックし、限界利益に大きく影響するようであれば変更します。ただし、材料費は安ければ良いというものではなく、代わりに加工費が増加してしまうと意味がありません。また、材料そのもののコストを下げる他に、製造工程や在庫管理を見直して歩留まりを改善する方法もあります。
赤字となっている工程があり、人件費を増やさなければ改善されないといった事情があるのであれば、その部分を外注に回すことで変動費を下げられる可能性があります。限られたリソースを細切れの作業に割り振るよりも自社ではメインの工程に注力してその他の部分を外注するほうが効率が良い場合は、積極的に利用しましょう。
4.固定費の削減
営業利益が減少している場合は、変動費に加え、固定費に問題がないかを考えます。なお、変動費は外部の影響を受けるため削減しにくい項目もありますが、固定費は社内の問題のため比較的コントロールがしやすい費用です。
固定費の中で最も多いのは、人件費です。1人あたりの人件費が高いようであれば、削減を行います。ただし、賃金や手当をただ下げるような施策だとモチベーションの低下につながりやすく、生産性の低下や離職率の増加につながる可能性もあります。賃金や手当を整理するだけでなく、ITツールの導入による業務の効率化、余剰人員の他部門への異動などの方法があります。どうしても余剰人員を売上高増加のために活用できない場合は、非正規化や人員の削減も検討することになります。
家賃の削減も有効な方法のひとつです。改善を行いにくい部分ではありますが、営業拠点を統合して拠点を減らす、より家賃の安い物件へ移転する、自社ビルがあるのであればテナント化して家賃収入を得るなどの方法があります。家賃の経費削減は事業の縮小のようにも思えますが、収益を改善することで将来の投資を増やすことができれば、削減時の影響は後から取り戻すことが可能です。
横断的な収益改善が大切
営業利益率が低く、低収益になりがちな製造業ですが、収益改善を行うことでさまざまなリスクの中でも成長できる企業になることができます。収益改善の際は、優先的に着手すべきポイントを見極めることが大切ですが、改善自体は部門をまたいで横断的に行うことが大切です。一部門だけで改善を行うのでは改善の余地が小さいため、経営陣がトップダウンで主導し、全社最適を目指すようにしましょう。