在庫の数量や品質、所在などを管理する在庫管理は企業にとって非常に重要ですが、在庫管理の効率化について課題を抱えている企業も少なくありません。在庫管理を効率化し、適正在庫を維持するためには、在庫管理の基本を理解しておくことが大切です。
今回は、在庫管理の基本である、棚卸資産のマネジメントと現品管理の方法を中心に、在庫管理の基礎知識から効率化のポイント、業務改善に役立つシステムをご紹介します。
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在庫管理とは
在庫管理とは、企業の資産である商品や資材などを、適正な数量と品質で管理する活動のことです。管理の対象となる「在庫」が指す内容は業界によって異なりますが、製造業においては、原材料・部品・仕掛品・完成品といった、製造プロセスで取り扱うモノすべてが該当します。会計上の用語では、在庫は棚卸資産と表現されます。
在庫管理を行う目的は、顧客の需要に対し、過不足なく製品を供給できるよう在庫を調整すること、そして、在庫のムダを削減して利益最大化を実現することです。具体的には、在庫の出入庫や返品対応、実地棚卸といった業務の中で、在庫の所在や数量の変動、状態などを正確に把握して、管理・評価をしていきます。
在庫管理の重要性
製造業では、製品や部品の適切な在庫管理が必要不可欠です。ここでは、在庫管理の重要性を説明します。
企業の資金繰りを左右する
過剰に在庫を抱え込んでしまうと、企業内のお金の流れ(キャッシュフロー)が滞ってしまいます。キャッシュフローが長く滞ると、管理コストもかかるため、場合によっては企業の運転資金が確保できず急な支払いに対応できない、倒産してしまう可能性もあります。そのため、在庫管理によって自社が在庫をどれだけ保有しているかを正確に把握し、キャッシュフローの改善・向上を図ることは企業の経営上重要です。
適切な量の在庫を管理できる
過剰在庫はキャッシュフローの滞りを意味しますが、在庫が少なすぎてもいけません。例えば、製造途中にミスやロスが発生した場合、原材料となる資材がなければ製造を停止せざるを得なくなります。これにより、予定通りの納入が実施できなくなるなど、製造以降のプロセスにも大きな支障をきたしてしまいます。
在庫管理によって資材などの数量や使用用途、発注・製造スケジュールなどを確認することで、余分な仕入や在庫不足を防ぎ、適正在庫を確保することが大切です。
在庫管理によるメリット
在庫不足・余剰在庫を防ぎ、キャッシュフローの流れを改善する手段として、在庫管理は重要です。以下では、在庫管理によってもたらされる主要なメリットを3つご紹介します。
①生産性の向上
在庫管理を適正化すると、製品を製造する際の生産性向上が期待できます。在庫の過不足や所在が明確になるため、不必要な人員配置を回避したり、在庫を探す手間を減らしたりすることができ、業務のムダが削減されます。生産プロセス全体の生産性の改善・向上が期待でき、生産のリードタイム短縮などにもつながります。
②余剰在庫の削減
在庫管理によって在庫状況を正しく把握することで、不必要な発注・余剰在庫を防止することができます。在庫変動のデータを正確に把握できていると、その情報に基づいた需要予測が立てやすいため、欠品を防ぎつつ余剰在庫を削減できます。
③管理コストの削減
余剰在庫を削減できると、ムダな仕入れや製造を抑制することにつながり、製造費用や余剰在庫を保管するための管理コストを削減できます。また、余剰在庫にかけていた費用を運転資金に回すことができるため、キャッシュフローの改善にもつながります。
棚卸資産を把握することの重要性
適正在庫を把握するためには、棚卸資産と現品管理について理解しておく必要があります。以下では、棚卸資産と現品の管理の基本と、現品管理が適切に行われていないことの問題点を解説します。
棚卸資産と現品管理とは?
棚卸資産とは、企業が一時的に保管している在庫を金額として算出・評価したもので、会計処理に用いられる指標の1つです。先述の通り、完成品だけではなく、作りかけの仕掛品や原材料といった在庫すべてが、この棚卸資産にも該当します。棚卸資産の値を算出することで、企業の在庫やキャッシュフローの状態を評価する、さまざまな指標を求めることができます。
例えば、在庫回転期間がその一例です。製造業において、在庫回転期間とは、製品を製造し出荷するまでの期間を表す指標です。在庫回転期間が短いほど、在庫が出荷されるまでの期間が短い、つまり一定期間により多くの在庫が出荷されている(キャッシュフローが良い)ことになります。
▼在庫回転期間の計算方法
在庫回転期間(年)= 棚卸資産合計/売上高(年間)
また、会計上重要な棚卸資産を正確に把握するためには、在庫管理業務の1つである現品管理(現物管理)を正しく行う必要があります。
現品管理とは、在庫について「何が」・「どこに」・「どのような状態で」・「どれくらい」あるのかをデータで管理することです。現品管理が正しい手法で正確に行われていれば、余剰在庫や滞留在庫の発生を防ぐことができたり、生産計画通りに生産から出荷が行われているか、という進捗状況をズレなく確認できたりします。そして、棚卸資産の評価額やそれに関連する指標にも誤差が生じにくくなります。
現品管理ができていないとどうなる
在庫管理では、現品管理が正しく行われ、棚卸資産を把握し、正しい在庫回転期間などを知ることが理想的ですが、管理が複雑化し問題を抱えている企業も多く存在します。
現品管理業務が複雑化し、うまくいかないことで生じる問題の1つが、ヒューマンエラーの多発です。
実在庫の確認作業でミスが起こりやすい環境では、「伝票を紛失した」「2人で在庫を数えていたのでデータが二重入力になり実在庫数と合わない」「在庫管理におけるルールの認知がベテランと新人スタッフで異なる」などの問題が頻発しやすくなります。
そうすると、得られるデータも不正確となりやすいため、毎回の数値チェックや修正にかかる時間・工数が大幅に増えてしまいます。
また、現品管理がうまくいっていないと、販売機会を失うことにもつながります。
在庫の数量や所在を把握しておらず、「顧客が欲しい製品がどこにあるか分からない」「人気商品の原材料の発注が遅れ、売上のチャンスを逃してしまった」という状況が発生してしまいます。
こうした状況を未然に防ぐために、棚卸資産と現品管理をマネジメントする上での注意点を押さえておくことが重要です。
在庫管理の基本!現品管理をする上での注意点
棚卸資産の把握と現品管理の手順を整え、機会損失を起こさないようにするためには、在庫管理の基本「5S」「管理体制」の考え方を理解し、注意すべきポイントを押さえることが大切です。以下では、現品管理をうまく実施する際の注意点を説明します。
5Sを押さえて現品管理をする
5Sとは、製造業において業務効率化を促す5つの活動「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の頭文字Sを取った言葉です。5Sを行うことで、作業効率を向上させ、業務改善を行うことが目的とされています。
5Sの基本的な考え方は、以下のようにまとめられます。
- 整理
整理のされていない環境では、「倉庫にある不要なオフィス機材などが積み重ねられてしまう」、「運転在庫が不要在庫に変化し放置されてしまう」といった状況が発生しやすくなります。そのため、不要なモノは整理して処分するなどの対応が必要です。 - 整頓
在庫がすぐに取り出せる、また、個数が把握しやすいよう置き場所が整頓されている作業環境が望ましいです。在庫にラベリングなどを行い、データと実在庫数の把握をしやすくする必要があります。 - 清掃
倉庫での保管状態が悪いことで、在庫の劣化が進みやすくなります。品質が劣化した在庫は処分・破棄されていくため、無駄なコスト増や販売機会の損失につながります。これらを防ぐために、定期的に清掃や点検を実施することが大切です。 - 清潔
定期的に清掃するだけでなく、清潔な状態を保てるように作業環境を整えることが大切です。整理・整頓・清掃の循環をうまく回し、清潔な状態を保つ取り組みを実践する必要があります。 - 躾
整理・整頓・清掃は、管理する人・実践する人がそれを意識し継続することが重要です。スタッフへの5Sならびに在庫管理に対する教育を実施し、管理への意識を定着させることが求められます。
管理しやすい環境を整える
5Sを徹底するのは難しいものです。どんなに経験が長いスタッフがいたとしても、ヒューマンエラーは起こってしまいます。それは「ヒト」のせいではなく、「環境」が生んでいるエラーの場合もあるため、5Sを管理しやすい環境を社内で整備していくことが重要です。効果的な取り組みとしては、以下の4つが挙げられます。
- 出入庫管理の共通認識
出入庫の方法をベテランと新人スタッフの間で共有することで、業務の平準化やムダな工数削減が期待できます。 - ルールの簡素化
可能な限りシンプルで分かりやすい業務ルールを設けることで、認識の齟齬を防ぎ、ルール順守による仕組化を促進します。 - 棚卸サイクルの短縮
棚卸を短いサイクルで実施することで、正確な棚卸資産を把握しやすくなります。 - 保管場所の分類
在庫を保管する際に仕切りを作る、サイズの大から小へと順番に分類するなど、モノを保管する環境を分類することで誰でも分かりやすく出入庫作業を行えます。
こうした取り組みを通じて、現品管理で5Sを徹底・ヒューマンエラーを対策していくことが、適切な在庫管理につながります。
ここまでは、在庫管理の概要やそのメリット、実施する際の注意点を解説してきました。次章からは在庫管理の効率化をより促進するための方法をご紹介します。
在庫管理を効率化する方法
在庫管理をさらに効率化するために知っておきたい方法は、以下の通りです。
先入れ先出しの徹底
先入れ先出しとは、先に仕入れた在庫から順に消費・出荷していくことです。原材料から完成品まで、古い物から先に払出しされるため、在庫が出荷できない状態まで劣化することを防げます。ムダな廃棄が起こりにくくなり、またこのルールで統一されていると在庫量や仕入原価の変動を把握する作業負荷も軽くなります。
ロケーション管理を徹底する
ロケーション管理とは、倉庫内のエリアを区分して在庫の所在や保管場所を管理することです。一般に、ロケーション管理は以下の3種類に分類でき、状況に応じて最適な方法を選定することが大切です。
- 固定ロケーション
固定ロケーションとは、在庫の保管場所を固定する管理方法です。同一カテゴリの在庫が同じ区画に管理されるため、倉庫内に在庫が点在することがありません。在庫を保管するエリアや棚、列、連、段が分かれば誰でも在庫状況を特定できるため、業務の平準化が期待できます。また、在庫の保管場所が定められていることで担当者が記憶・確認しやすく、出入庫の対応もスピーディになるため、おすすめです。 - フリーロケーション
フリーロケーションとは、保管場所を定めず、倉庫の空いている棚に随時在庫を保管する管理方法です。入荷する製品が頻繁に変わる場合、固定ロケーションでは保管場所のルール変更も頻繁に行う必要がありますが、フリーロケーションではその必要がなく、空きスペースも有効活用することができます。 - ダブルトランザクション
ダブルトランザクションとは、倉庫内で固定ロケーションを行うエリアとフリーロケーションを組み合わせる管理方法です。固定ロケーションとフリーロケーションのメリットを享受することができますが、固定ロケーションへの補充作業が必要となるため、作業工数が増えるというデメリットがあります。
ABC分析を行う
ABC分析とは、在庫管理において売上高や出荷量、コストといった評価軸を定め、在庫に優先順位(A・B・C)を付けて管理する方法です。 ABC分析の考え方として基本的には、一定期間内の製品ごとの売上高を評価基準とします。売上高が高い(総売上に対する売上構成比が高い)製品から順に重要度をランク付けし、重要度の高い製品に対して優先的にリソースを割り当てます。在庫管理にかけるリソースを最適化することで、業務のムダ削減を目指せます。
バーコードやタグ、在庫管理システムの活用
在庫管理を手入力や紙ベースで行っている場合、バーコードやタグ、在庫管理システムの導入によって作業を大幅に効率化できます。出入庫による在庫数量の変動や、出荷スケジュールを電子化できる機能があり、在庫管理の業務における平準化やコスト削減が期待できます。
在庫管理システム導入のメリット
在庫管理業務の効率化には、在庫管理システムの導入が有効的です。本章では、在庫管理システムの導入によって得られるメリットを3つご紹介します。
①余剰在庫が少なくなる
在庫管理システムを導入することで、在庫が現在何個あるのか、何個出荷予定なのかなどの在庫情報をより正確に、データで把握することができます。すると、過去の正しいデータを基に需要予測を立てられるため、適正量の資材発注や過不足の誤差を少なく抑えた生産につながり、余剰在庫を削減できます。
②ヒューマンエラーを削減できる
手作業で行っていた業務を自動化することが可能なため、ヒューマンエラーを削減する効果も期待できます。例えば、現品管理業務の中で発生していた伝票の手書き/手入力をバーコード読込などの機能で自動化できると、記入・入力にともなうヒューマンエラーは発生しません。特に、大量に資材を受け入れるときは、手早く作業を済ませることができます。
③リアルタイムで情報共有ができる
資材の手配状況や納期管理、現在庫と在庫予測といった情報は案件ごとに日々動いています。そうした情報を在庫管理システムでリアルタイムに共有することができれば、問題の未然防止にもつながります。特に個別設計生産を行う企業では部門間の情報を一元管理・共有することで、生産性の向上や確認、意思決定のスピード向上につながります。
より詳細なシステムの導入効果については、以下の記事で詳しく解説しています。
在庫管理システムの効果を最大化する方法
有益な導入効果が期待できる在庫管理システムですが、実際に導入しても適切に運用することができなければ大きな効果は望めません。本章では、導入効果の最大化を図るため必要な3つの方法について解説します。
導入目的の明確化と共有の徹底
導入効果を得るためには、まず、導入目的を明確にして社内で共有することが重要です。従業員にとっては新システムの導入によって新たに覚えてなければならないルールやタスクが増えることになります。そのため、導入前に「なぜ在庫管理システムを導入するのか」「導入によってどのような効果が望めるのか」を明確化して共有し、従業員の理解を得た上で導入することが大切です。 情報共有の際に「余剰在庫がなくなることでキャッシュフローが良くなる」といった会社目線のメリットだけでなく、「仕事を効率化して従業員の負担を軽減する」といった従業員にとってもメリットのある導入目的を明示することが重要です。
従業員教育を行う
システムの導入効果を最大化するためには、運用のルールを定めてそれを全員が守ることが求められます。システムによって在庫情報などが自動管理されるようになりますが、共通の運用ルールを決め、それが守られることではじめて全社的に業務が平準化・効率化されます。企業は、ルールが順守されるように従業員にルールを周知し教育を行うことが大切です。加えて、ルールは従業員からのフィードバックなどを取り入れて、定期的に修正して更新すると良いでしょう。
連携やカスタマイズ性の高いシステムを選定する
在庫管理の導入する際は、在庫管理以外の業務システムとの連携や、自社に合わせて機能をカスタマイズできるものを選定することで、より導入効果を得やすくなります。
在庫管理システムにはオンプレミス型とクラウド型があり、企業や現場の環境やニーズに適したシステムを選択すると良いでしょう。
- オンプレミス型
自社でサーバを設置し、システムベンダーから購入したソフトウェアをインストールして運用を行うのがオンプレミス型です。
<特徴>
・カスタマイズの自由度が高く、大規模環境への導入に適している
・サーバ、ネットワーク機器、ソフト、ライセンスなどを購入してネットワーク環境を整備する必要があるため、初期費用が高額になりやすく導入にも時間がかかる
・自社内でクローズするため、運用管理業務や独自のセキュリティ体制が必要
- クラウド型
インターネット経由で外部リソースを月額もしくは年額で利用してシステム構築を行うのが、クラウド型です。
<特徴>
・初期コストが無料もしくは低額で、アカウント登録後すぐに利用可能
・運用管理業務が発生しないため、本来の業務に注力できる
・外出先などでのモバイル利用も可能
正しい現品管理・棚卸資産のマネジメントを行いつつ、連携度の高いシステムで在庫を適正化しよう!
適正在庫を維持し、企業のキャッシュフロー改善や利益率の向上を図るために、在庫管理は非常に重要です。企業によってモノを管理する場所や方法も違いますが、基本的な5Sや管理体制を押さえ、必要に応じて自社の環境にマッチするシステムも活用しながら正しい在庫管理を行う必要があります。
以下では、在庫管理を適正化する大興電子通信のハイブリッド販売・生産管理システム「rBOM」をご紹介しています。現在の在庫管理体制の見直しにご関心をお持ちの方は、ぜひご一読ください。