PLM(Product Lifecycle Management)とは、製造業において製品のライフサイクル全体を管理する手法のことです。労働人口の減少や景気悪化など、製造業界を取り巻く現状が厳しくなっている中でPLMは企業の競争力や売上向上に有効な取り組みとして注目を集めています。
本記事では、PLMの概要や機能に加え、PDMとの違い、導入で得られるメリットをご紹介します。
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PLMとは
少子高齢化による労働人口の減少や新型コロナウイルスの影響による景気悪化など、製造業を取り巻く環境は厳しさを増しています。そのため、自動化や省人化などを図れるIT技術の活用がますます重要となっており、PLM (Product Lifecycle Management)と呼ばれる概念・手法が注目されています。
ここではPLMの概要や目的、注目される背景について解説します。
PLMの概要
PLMとは、自社製品の企画から設計開発、製造、販売、保守までのライフサイクル全体を一体的に管理する手法です。
企画や生産、販売といった各プロセスを相互に関連付け、共有することで業務プロセスの効率化やモノづくり体制の強化を図ることができます。またPLMに取り組むことで、製造の前段階から製品の解体や廃棄、もしくはリサイクルまで考慮した設計・開発を行えます。
航空・宇宙産業や自動車産業からはじまり、電機産業や産業機器業界などを含め、幅広い業界で導入が進んでいます。
PLMの目的
PLMの目的は、市場の変化やニーズの変容に対応した高付加価値の製品を他社に先駆けて創出、市場投入することで、業務効率や開発力、企業競争力の強化をすることにあり、企業の存在価値を高めるために重要な役割を果たしています。
企業力強化のためには、常にQCDの改善により利益を最大化させたり、市場やニーズの変化に対応して短期間かつ低コストで高品質の製品を生産したりする必要があります。これらは、ライフサイクル全体を一元管理し、各部門の連携を促すことができるPLMによって実現できます。
PLMが必要とされる背景
先述したようにPLMが必要とされる背景には、近年の製造業を取り巻く環境の変化と、IT技術の発展があります。
消費者の嗜好やニーズの多様化、短期間でのトレンド変化、製品ライフサイクルの短縮などに加え、SDGsをはじめとするコンプライアンス重視のモノづくりも求められるようになり、製造業を取り巻く環境が変化しました。
従来の紙やExcelによる管理ではスムーズな情報共有がしづらく、目まぐるしく変化する市場環境やコンプライアンス遵守の厳格化に対応しにくい点が見受けられます。
また、IoTやDXの進展など、製造業でもIT技術を活用する環境が整ってきていることから、製品ライフサイクル全体のデータを容易に取得・管理できるようになりました。
このような背景から、紙やExcelで管理していた情報のデジタル化・データベース化を進め、さまざまな技術情報を集約し、製品ライフルサイクル全体をつなぎ、管理ができるPLMが必要です。
PLMでは、設計・開発部門や製造部門など、部署間でのデータ連携・情報共有を進めることで、入力の二度手間や情報のタイムラグを減らしつつ、データや状況を正確に共有することが可能です。
上記のように、情報を正確かつ迅速に伝えられる環境を整えることで、品質向上やコスト削減につながり、国内製造業の製品開発力強化を図ることができます。
PLMとPDMの違い
PLMとよく似た製品情報管理の手法にPDM(Product Data Management)があります。
PLMとPDMの違いは、管理対象になるデータの範囲です。PLMはライフサイクル全体のデータを管理するのに対し、PDMでは、設計BOMやCADデータといった開発・設計工程における製品情報を一元管理します。下図の通り、PDMで扱うデータは、PLMで管理するデータ領域の一部に含まれます。
PLMは、2000年代からPDMの機能が拡張される形で登場したシステムです。
それまでは、大量生産・大量消費の時代であり、製造業では製品をいかに安く、速く、多く生産し安定供給できるかが大きな課題でした。そして、開発・設計業務を効率化し、生産までのリードタイム短縮・コスト削減を実現するPDMの活用が盛んでした。
しかし、グローバル化や消費者ニーズの多様化が進んだ2000年代からは、モノづくりに関わる一連の部門連携を最適化し、市場の変化への対応スピードや QCDの向上が重視されるようになりました。そこで、開発・設計部門に限らず、より広範囲なワークフローを管理できる機能などがPDMに搭載され、「PLMシステム」という名称で普及していきました。
次章では、PLMの具体的な機能を詳しく解説します。
PLMシステムの機能
PLMシステムは、製品ライフサイクルの各工程で必要となる多様な機能を持っています。
今回は、製造の設計部門を中心とした、「企画構想・開発」、「製品設計」、「工程設計」、「設備設計」、「生産準備」までを含めたエンジニアリングチェーンに着目し、各業務における主なシステム機能をご紹介します。
CAD
CADとは、「Computer Aided Design」の略で、従来ドラフターなどを用いて手書きしていた製図の設計作業を、コンピューターで効率的に設計できる機能です。
2次元だけでなく3次元で行うこともでき、組み立て業務や生産ラインのシミュレーションなど、3次元空間に立体的な形状をモデリングすることが可能です。
またCADソフトウェアは、分野別に機械用、電気用、建築用、建築設備用、土木用向けなどの専用CADがあります。
これまで紙で作成していた膨大な設計データを扱えるため、過去の膨大な設計データから類似の図面を検索し、反映することも可能です。
2DCAD、3DCADそれぞれにメリット、デメリットがありますが、製造業のDX推進が求められる近年では、3DCAD設計及び3Dデータ活用がデジタルエンジニアリングの中核になります。
3D設計の基本やメリット、導入時の注意点を確認しておきたい方は、以下の記事をご覧ください。
自動設計
自動設計は、製品やユニットの標準化を図ることにより、製品仕様を入力するだけで見積図面や3Dモデル、見積書などの設計成果物を自動生成できます。そのため、設計の業務効率化を図ることが可能です。
また設計業務では、「図面での要求事項の打合せで、認識や仕様に齟齬が生じてしまう」「業務が属人的になっており、似て非なる図面が作成されてしまう」といった課題が生じやすいですが、自動解析では製品仕様を入力すると自動的に成果物を出せるため、認識の齟齬が生まれることなく品質を均一に保つことができます。
このように、CADを応用させた最新技術である自動設計は、スピード設計や仕様の早期確定、均一品質・見積、そして短期納品などを実現できます。
解析
解析(CAE)は、「Computer Aided Engineering」の略で、従来手計算で行われていたものをコンピューターで各種解析を行うエンジニアリング機能です。
解析の種類には構造解析、流体解析、数値解析などがあり、構造解析には主に、応力解析、振動解析、熱伝導解析などがあります。
以前は、解析専任者が業務を主に対応していましたが、現在では「設計者向け構造解析」が登場しており、設計者自身が製品の強度、振動、熱に関する評価を行えます。
これらの性能確認は、実際に試作や試験を行わなくても計算・シミュレーションによって結果を得られるため、開発期間の短縮やコスト削減、環境負荷軽減といったメリットがあります。
CADデータ管理
CADデータ管理は、単にデータを整理するのではなく、管理を行うことで設計時に必要な対象データの検索が容易になりムダな工数・時間を省けます。
従来の2D図面の管理はWindowsエクスプローラのフォルダで対応可能でしたが、3D設計が進むにつれ、データの整合性や版数管理など管理が複雑化し、Windowsエクスプローラのフォルダ管理では限界がきています。
また、コンカレント開発が重視される中、設計データの早期共有、チーム設計、部品共通化、標準化が必要とされ、取引先毎の複数のCADシステムを管理する必要性が更に高まっています。
技術情報管理(BOM管理)
設計開発業務を進める上で技術情報の核となるものが、設計部品表(E-BOM)です。E-BOMを中心に部門毎に最適化されたBOM(M-BOM:製造部品表、S-BOM:保守BOM)などを統合的に管理できます。
設計部品表は紙やExcelで管理されることが多く、情報の二重入力が発生する、検索に時間がかかる、属人化する、情報の利活用が進まないといった課題に直面しているケースも多くみられます。
このような場合は、設計部品表をデータベース化することで、部品表を中心に技術情報を一元的に管理でき、設計業務の効率化や関連部門とのシームレスな情報連携が可能となります。
またこれにより、リードタイムの短縮やコストダウン、高品質なモノづくりにもつながります。
3Dデジタルデータを活用したデジタル生産準備
デジタル生産準備業務で3Dデジタルデータを活用すると、使用する工具や組み立て作業の手順や工数など詳細な製造情報を集約することが可能です。
従来の生産準備業務は、試作機などの実機を使って、組立性検証、組立プロセス検討、作業指示書作成等を実施していました。しかし、3Dデジタルデータを用いることで詳細で正確な製造情報を視覚的に理解し実施できるため、品質向上・属人化防止を実現できます。
また、製品開発のプロセスにおいては複数部門の業務を同時に進行させることができるため開発業務の効率化や納期短縮につながります(コンカレントエンジニアリング)。
VR
VRとは、「Virtual Reality」の略で、コンピューター上で人工的な世界を作りだし、実体験に近い体験を得ることができる仕組みです。
機械設備開発では、機械設備ができあがった後に不具合によって再設計が発生することがあり、納期の延長や費用の増加が起こりえます。そこで、製造業向けのVRを活用することで、2Dのディスプレイ上では気付くことができなかった不具合を、3Dの中に入り込んで検証・検討・発見することができます。
PLMシステムの導入によるメリット
前章では、PLMシステムの詳細な機能と各機能で実現できることをご紹介しました。
本章では、PLMシステム導入によって得られるメリットを解説します。PLMを導入することで、主に「品質向上」「リードタイムの短縮」「コスト削減」の3つが実現できます。以下ではそれぞれについて解説します。
品質向上
PLMシステムでは各プロセスで取得・収集したデータを分析し、情報を一元的に管理・共有することができます。一元的な管理によって不具合をすぐに発見・修正でき、更にワークフロー全体を最適化できるため、製品の品質向上につながります。
リードタイムの短縮
PLMシステムによって製品に関するデータを一元的に管理することで、調達や発注のタイミングを適正化でき、製造工程の見直しもスムーズに行えるようになります。
必要なデータや情報をすべてシステム上で管理できるため、紙ベースでの情報共有や開発に比べ大幅に時間を短縮することが可能です。
例えば、実際に車を衝突させる実機検証をシミュレーションで行ったり、手書きの図面設計を3次元CADに置き換えたりすることで、効率化を図ることができます。
消費者の多様化や市場のトレンドの変化に対応するためには、PLM活用によるリードタイムの短縮で、生産から製造、納品までのオペレーションを頻繁に変更できることが必要です。
コスト削減
PLMを導入することで、製品開発や生産等において人件費、原材料費をはじめとするコストがどのくらいかかっているのかをプロセス毎に把握・共有できるようになります。
また、解析の機能の際にも説明したように、バーチャルの世界で施策やシミュレーションが行えるようになることで、業務時間が短縮されるだけでなく、人件費などのコストも削減することができます。
PLMについては大興電子通信にご相談ください
大興電子通信は、各部門における部品表の一元化・共有化・リアルタイム化を実現する生産・販売管理ソリューション「rBOM」など、製造業においてPLMを進めるための各種ソリューションを提供しています。
営業、設計、製造など、製品のライフサイクルに関わる全部門のデータ連携、また3Dデータを活用したモノづくりを推進するPLMソリューションについてご関心のある方は、以下の資料をご覧ください。
https://www.daikodenshi.jp/daiko-plus/product-lifecycle-management/
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