製造業では、情報管理や業務フローを効率化するためのITシステムが多数存在しています。 なかでも近年は、一部の部門や業務においてのみ使用できるような限定的な機能しか保有していない製品ではなく、企業全体をDX化する包括的な製品も多く登場してきました。
本記事では、よく混同されがちなPLMとPDM、およびBOMシステムについてそれぞれの違いがわかりやすいよう、概要・機能・メリットについて簡単に解説します。
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PLMとは?
PLMの概要
PLM(Product Lifecycle Management)とは、製品ライフサイクルを対象としたあらゆる情報を管理することです。製品の設計・開発・製造・販売・廃棄といった一連の工程における情報を一元管理して、利益の最大化を図ることを目的に行われます。
PLMの機能
PLMが持つ機能は多岐にわたりますが、代表的な機能としては次のようなものが挙げられます。
■CAD
CAD(Computer Aided Design)は、従来手書きしていた製図作業をコンピュータで効率的に行う機能です。過去の設計データから類似図面を検索し、流用することで生産性向上も図れます。 CADには、製図を2次元で行う2DCADと、3次元で行う3DCADがあります。 3DCADは組み立て業務や生産ラインのシミュレーションなど、3次元空間に立体的な形状をモデリングすることが可能で、製造業のDX推進において注目されている技術の一つです。
■CADデータ管理
データを整理して保管し、必要なデータをすぐに取り出せるように管理する機能です。 データ検索などの機能も備えており、ムダな工数・時間を省けます。
■BOM管理
これまで紙・Excelで管理されることが多かったBOMを、ITで管理する機能です。
管理の煩雑さゆえに発生していた情報伝達漏れなどの人的ミスやBOMの作成・更新の手間を削減し、検索に時間がかかるという問題も解消することが可能です。
■自動設計
自動設計は、製品やユニットの標準化を図ることで、製品仕様を入力するだけで3Dモデルや見積図面、見積書などの設計成果物を自動生成することができる機能です。 設計業務を効率化できるだけでなく、設計品質を均一に保てるメリットもあります。
■解析(CAE)
解析(CAE = Computer Aided Engineering)は、主に性能確認を目的として手計算で行われていた解析作業をコンピュータで行う機能です。構造解析、流体解析、数値解析などさまざまな解析の種類があり、構造解析には主に、応力解析、振動解析、熱伝導解析などがあります。昨今では解析専任者でなくても設計者向けの構造解析機能が登場しており、設計者自身が製品の強度、振動、熱に関する評価を行えます。実際に試作や試験を行わなくても計算・シミュレーションによって性能確認ができるので、開発期間の短縮やコスト削減などのメリットがあります。
■VR
機械設備開発では、機械設備ができあがった後に不具合によって再設計が発生することがあります。 こうした場合、納期遅延やコスト増加などの問題が生じてしまいます。 そこで近年、製造業向けのVR(Virtual Reality)を活用して、平面ディスプレイでは気づけなかった不具合などを、3Dのバーチャル空間のなかで検証・検討・発見する手法が注目されています。 製品によっては、このような最新技術を備えているものもあります。
その他、PLMに備わっている機能については、こちらの記事で詳しく解説しています。
PLMがもたらすメリット
PLM導入によってもたらされるメリットは、「品質向上」「リードタイムの短縮」「コスト削減」といったQCDの向上です。
まず、PLMシステムでは各プロセスで取得・収集したデータを分析し、情報を一元的に管理・共有することができるので、不具合をすぐに発見・修正したり、ワークフロー全体を最適化したりといったことが可能になるため、製品の品質向上につながります。
また、各プロセスにおける情報伝達・検索の速度や、自動設計・解析などの機能を使った既存業務のスピードを大幅に短縮することができるので、リードタイムも短縮できます。 品質が向上して不具合やミスが減り、各プロセスの業務効率が向上すると、それに伴う人件費・材料費などのコストも低下するのでコストダウンにもつながります。
PLMシステム導入によるメリットは、こちらの記事でも詳しく解説しています。
システム導入時の注意点や3つの事例をご紹介
PDMとは?
PDMの概要
PDM(Product Data Management)は、製品に関するデータを効率的に管理するための製品情報管理システムのことです。主にCAD・BOMといった設計工程における情報を一元管理するもので、製品によってはそれ以外の設計情報やスケジュール・仕様書・指示書などのドキュメントも管理することができます。
PLMが製品ライフサイクルすべてに関する情報を管理するのに対して、PDMは製品設計時のCAD・BOMといったデータの管理に特化している点が異なります。
PDMの機能
PDMの主な役割は、前述の通りCAD・BOMやその他設計に関する情報の一元管理です。
製品によっても異なりますが、PDMの多くは情報管理を安心・便利に行えるように次のような機能が備わっています。
■データ管理機能
設計データから必要な部品、ステータス、バージョン情報などさまざまな情報を管理する基本機能です。具体的には、CAD、図面、ドキュメント、部品表(BOM)などの情報が対象に含まれます。 一部の情報にアクセス権限を付与して、限定された対象者しか情報にアクセスできないようにすることも可能です。膨大な量のデータを関連するデータごとに整理して保管してくれるので、必要なデータを探したり他者間と共有したりするうえで業務効率が向上します。
■データ検索機能
ファイルや図面を簡単に探すことができる機能です。
製品によって検索機能の性能はさまざまですが、キーワードでファイル名を検索したり、データに紐づけられた種類・属性情報別にフィルタして検索ができたりといった機能が挙げられます。 高性能な検索性能を備えた製品では、ファイル名だけでなくファイル内の文書やプロパティ情報などもキーワード検索で探すことも可能です。
■ワークフロー機能
主に申請・承認フローのような、設計部門で発生するワークフローを可視化・システム上で完結できるようにする機能です。
■セキュリティ機能
データへのアクセス権限や、「閲覧のみ可能」「閲覧・編集が可能」といった権限設定を行える機能で、ユーザーごとにアクセス制限をかけられる機能です。 重要な情報が勝手に編集されてしまったり、機密情報が誰でも閲覧できるようになってしまったりといったトラブルの元を未然に防ぐことができます。
PDMがもたらすメリット
PDMを導入する主なメリットは、情報を一元管理できることで情報共有や検索、部門間の連携などが素早く・正確になることです。これまで部門間・担当者間で個別の方法・場所に保存されていたバラバラの情報を一元管理できれば、情報伝達のミス・ムダを大幅に減らせます。
また、製品開発に関する情報をひとつのシステムで管理するようになると、これまで個々のやり方で属人的に行われていた業務フローが一本化されるので誰が関わっても同じ業務が行えるようになるのもメリットです。
PDM導入のメリットについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
BOMとは?
BOMの概要
BOM(Bill Of Materials)とは、部品表のことで製品を作るために必要な部品を一覧表にしたものです。(詳しくは、以下の記事を参照ください)
BOMには、設計段階で使用する「E-BOM」と製造段階で使用する「M-BOM」があります。 また、管理方法としては製品に必要な部品・材料を、すべて並列で一覧化する「サマリ型」の管理方法と、製品の組み立て順序などを踏まえて親品目・子品目の階層構造で管理する「ストラクチャ型」の管理方法があり、1つの製品でも用途・使用する部門によって適切な形式のBOMが複数作成されています。
従来BOMは紙・Excelで管理されることが一般的でしたが、部門間で使いやすい形式にするために転記する際にミスが生じたり、仕様変更などの影響でどこかのBOMに変更があった際にそれがうまく伝達されず、各部門が保有するBOMごとに差異が生じてしまったりといったことが頻繁に起きていました。
こうしたミスやBOMの作成・管理負荷を減らすことを目的に、BOMをITで管理できる製品がBOMシステムです。BOMが複数あることでよく起きるトラブルについては、以下の記事で詳しく解説しています。
BOMシステムの機能
BOMシステムの代表的な機能としては、次のようなものが挙げられます。
■BOMの管理機能
設計毎・生産毎など、BOMを体系的に管理する機能です。
どこにBOMがあるのか明確になり、それぞれの部品表間で矛盾が生じることを防ぎます。 また、類似製品を設計する際に過去BOMの情報を簡単に参照できるようになるため、BOM作成・管理が効率化できます。
■BOM更新機能
設計変更の際に、部品の追加・変更・差し替えなどを行う機能です。
設計部門で部品表に変更を加えた場合、それを調達部門・製造部門など他部門で管理するすべての部品表にも反映するのは手間がかかりミスが発生しやすい作業でもあります。
ITで管理を行うBOMシステムなら、それぞれのBOMを連携させて自動的に更新が反映されるようにでき、更新履歴を残すことも可能です。
BOMシステムがもたらすメリット
BOMシステムと紙・Excelでの部品表が大きく違うのは、設計部品表や製造部品表などの異なる部品表を一元管理できることです。同じ製品に対して書き方が違う部品表でも共通のマスタデータを使用できるため、コードの統一や部品数の在庫などの情報を簡単に共有できます。
そのため、これまで発生していた部品の不足や超過といった不具合が発生しにくくなり、さらに情報をすり合わせる手間もなくなるため、業務の無駄を軽減することが可能です。
自社にとって最適なBOMとおよびシステムの選び方について、こちらの記事で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
BOMの分類やおすすめシステム3選
PLM、PDM、BOMの違い
PLM、PDM、BOMの比較
ここまで各製品について解説してきましたが、最後にそれぞれの違いを簡単にまとめます。
■PLMシステム
対象領域:製品ライフサイクルを対象としたあらゆる情報を管理・PLMを実現するシステム
できること:情報の一元管理だけでなく、自動設計・解析(CAE)・VRなど、QCDを向上させ市場競争力を高めるためのさまざまな機能が揃っている
■PDM
対象領域:CADや部品表(BOM)などを中心に、設計に関する情報を管理するシステム
できること:製品設計時のCAD・BOMといったデータの管理に特化しており、設計に関するワークフローや情報伝達を効率化してくれる機能が揃っている
■BOMシステム
対象領域:部品表(BOM)の情報をIT管理するシステム
できること:BOMの管理に特化しており、設計部品表や製造部品表などの異なる部品表を、共通のマスタデータを用いて一元管理できるため、これまで発生していた情報伝達ミス・漏れなどの人的ミスや、転記・更新の手間などを削減できる
どの製品も一長一短があるため、自社に合った製品を選ぶことが大切です。
自社に合った製品の選び方は?
前述の通り、PLMシステム、PDM、BOMシステムはそれぞれ対応できる範囲・実現できることが異なります。 自社にあった製品を選ぶためには、まず自社で実現したいこと・解決したい課題が何なのかを明確にし、それぞれの製品の違いについてよく理解して、適切な製品を見極めることが重要です。
その際に、製品選びのノウハウ・知見や専門家のアドバイスがほしいという場合には、まずはざっくばらんにSIerやベンダーに相談してみることもおすすめします。 弊社でも、PLMシステムとその導入支援なども行っておりますので、もしお困りのことがあればお気軽にお電話またはお問い合わせフォームからご相談ください。
弊社で取り扱っているPLMサービスの詳細については、以下よりご覧いただけます。
PLMの実現にご興味のある方は、以下リンクよりご相談ください。