生産管理

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不良品を見逃さない! AIカメラという「神の眼」。品質管理新時代

※こちらの記事は発行時(2023年7月)の文章のまま掲載を行っております。

製造業は、人手不足や高齢化などの社会的課題に直面しながらも、常に高品質な製品を安定的に供給することが求められています。そのためには、今後ますますI T技術の活用が不可欠です。本特集では、AIカメラによる品質管理の最新トレンドから、製造業の競争力強化の方法を探ります。

日本の「工業」の歴史
凝り性な日本人の「ものづくり」プライド

 日本は明治維新以降、製造業を発展させ、中でも紡績や製糸業などの軽工業分野が大きく注目され、主力品目として輸出されるようになりました。大きな資源を持たない日本は、原材料を輸入し、それを工業製品に加工し輸出していたので、「世界の工場」と呼ばれている、そんな時代でした。

 当初は低賃金を背景とした「低価格」が目玉だったものの、もともとの技術的な素養と日本人の「凝り性」が開花したのか、メキメキと品質を向上させ、製鉄・製紙・機械などの分野で世界と競合できるような企業が数多く生まれ始めました。
 さらに戦後になると朝鮮戦争特需を契機としたトラック生産の拡大をカンフル剤に荒廃した状態から急速に発展。高度経済成長期には家電製品や自動車などの日本製品が世界中に普及。さらに1980年代からはコンピューターや、半導体産業などのエレクトロニクスを中心としたハイテク分野が経済をけん引しました。
 
1985 年に公開されたスティーブン・スピルバーグの映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」には、1955 年のドクが、壊れたタイムマシン「デロリアン」の部品を見て「ああ、これじゃ壊れるはずだ。こいつはメイド・イン・ジャパンだ」という一方で、1985 年に青春を過ごすマーティーは「何言ってんのドク? いいものはみんな日本製だよ」と言い返すシーンがあります。当時の時代背景を物語る、最も象徴的なシーンと言ってもよいかもしれません。

 これらの日本の製造業の急速な発展は、現場が「ものづくり」に対するプライドと情熱で技術を高め、革新的な製品を生み出してきた成果と言えます。一方で、並々ならぬ努力で「不良品を出さない」ということに挑戦し続けてきた、その結果として得られた信頼でもあります。

 そして時は流れて、1990年代。「24 時間働けますか?」という栄養ドリンクのキャッチフレーズがCMで流れ、寝る間も惜しんで働くジャパニーズビジネスマンが時には「ワーカホリック=仕事中毒」とやゆされながらも、世界中で存在感を示した時代でもありました。しかし程なく訪れたバブル崩壊。そこに端を発し徐々に価値観の変化が始まり、現在では、あらためて人間らしい働き方が見直される、そんな時代になってきました。

不良品との戦い
安全や人命を支える「品質管理」という防衛線

 製造業など生産全般において、原料や素材の投入量に対して実際に得られた生産数量の割合のことを「歩留まり」と呼びます。本ページ欄外コラムの「アメリカンジョーク」のように、日本は品質管理の名の下に、製造プロセスにおける不備や人為的ミスで発生する不良品を、徹底的な仕組み化と人的リソースの投入で排除してきました。

 しかし、現在は先述のような働き方の変化や、熟練の職人の引退、若手人材の不足、原材料費高騰などの厳しい状況が続き、徐々に人的なリソースによるチェックが限界を迎え、不良品リスクが高まっている状況といえます。万が一不良品が出荷されてしまうと、顧客満足度や信頼性が低下するだけではなく、リコールなどが発生して大きな損失を招く可能性があります。そして最悪の場合は、事故や災害などの人命に関わる恐れもあるのです。

 これらのリスクを回避するためには、あらためて、「品質計画」、「品質保証」、「品質改善」、「品質監査」などを含んだ「品質管理」という予防線づくりに、真正面かつ進歩的な目線で取り組むことが必要不可欠です。

職人の眼を超えた
休まず、疲れない「神の眼=AIカメラ」

 これまでは「目視検査」「サンプリング検査」「全数検査」などの手法を用い、人の目で見て、手で触れて製品をチェックしていく方法が取られていましたが、どの方法にも一長一短があり、今後の継続的な運用をしていくという観点で不安が残ります。そこで、これらの問題点を解決するために注目されているのが、「AIカメラ」による自動検査技術なのです。

 AIカメラとは、人工知能(A I)とカメラを組み合わせた技術です。「画像認識」、「深層学習」、「画像処理」といった技術を用いて、製造工程中に製品画像を「撮影」し、AI モデル(アルゴリズム)で画像から欠陥や異常を「判断」し、不良品を排除します。また、排除した際の判断結果や画像データを「保存」し、AIモデル自身が「学習」と「アップデート」を続けることで、休まず、疲れず、常に最新で最適な検査を行い続ける「神の眼」のような働きができるのです。

 AIカメラによる自動検査技術は、すでに多くの企業が導入しており、例えば大手海外自動車メーカーでは、AIカメラで塗装面の欠陥や傷を検出し、成果を上げています。また大手電機メーカーでは、AIカメラで半導体や液晶パネルなどの微細な欠陥を検出し、歩留まりが向上したというレポートも。さらに大手食品メーカーでは、AIカメラで食品の色や形などを判断し、安全性やおいしさといった品質基準をAI が保証。人手不足の問題を補いつつあります。

 しかしながら、AIカメラによる自動検査技術が全ての製造業に適用できるわけではありません。製造業は業種や製品によって異なる生産プロセスや品質基準を持ちます。そのため、AIカメラによる検査体制はそれらの特性に合わせてカスタマイズする必要があり、自社ラインに合わせて導入する際の初期投資が高額となる場合もあります。したがって、AIカメラを導入するかどうかは、その企業や業界においての「コストと効果のバランス」そして「人間と機械の役割分担」または「倫理的・法的・社会的な問題点」などを考慮した、高度に経営的な判断が求められる、新たな技術的取り組みであると言えます。

製造管理×品質チェックは工場プロセスをどこまで自動化するか

 まだまだ新しい技術であるA I カメラによる自動検査技術ですが、今後普及が進むことで精度や汎用性が増し、さらに学習結果の一部がオープンソースとなり、ものづくり・製造業共通の財産として活用されていくことが予想されます。

 検査結果や画像データを蓄積し、学習を繰り返すことで培われた高度な判断能力は、単に不良品を検出するだけでなく、不良品の発生原因の分析や、製造プロセスの改善提案、製品品質の予測・最適化などの付加価値を提供することが可能になると考えられるからです。

 つまり、AIカメラは品質管理では「不良品を検出・除去すること」を行い、製造管理では学習結果から原因の分析を行い、「不良品発生率を下げること」に貢献しますが、その先にはIoT、ビッグデータ、クラウドといった技術と連携し、品質管理と製造管理のデータを統合することで、最終的にはAIが学習結果を用いて製造工程全体を効率的かつ効果的に運用する「工場プロセス最適化」を目指すことができるということになります。

 製造業は人手不足という慢性的な課題を抱えながらも、常に高品質な製品を安定的に供給することが求められる事業です。ものづくり現場を率いる管理者や経営者は、AIカメラをはじめとする新たな技術や手法にアンテナを張り巡らせ、検討し、積極的な採用に挑戦しなければなりません。しかし、その挑戦は、製造業全体の未来が明るく花開く可能性を秘めています。

 「品質管理新時代」。AIカメラから始まったイノベーションが、「工場プロセス最適化」というシンギュラリティーを起こすことが期待されます。未来の製造業の行く末に今注目が集まっています。


本記事はD’s TALK Vol.54の掲載コンテンツです。
その他の掲載コンテンツは下記のページからご覧ください。
https://www.daikodenshi.jp/daiko-plus/ds-talk/vol-54/


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