企業の利益を表す指標として、粗利、営業利益、純利益などさまざまな用語がありますが、その中でも重要視されているのが「粗利」です。本記事では、粗利に関する基礎知識をわかりやすく解説します。
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粗利(売上総利益)とは?
粗利について理解するためには、次のポイントを押さえておく必要があります。
- 粗利の計算方法
- 粗利率とは
- 営業利益・経常利益・税引前当期利益・当期純利益との違い
それぞれのポイントを確認して、粗利に関する基礎知識を押さえておきましょう。
粗利の計算方法
粗利(売上総利益)とは、製品の売上高からその製品の売上原価を差し引いた金額のことです。つまり、製品を販売したことで得られる直接的な利益を表しています。
粗利を把握することで、製品やサービスの生産・提供にかかるコストを考慮したうえで、企業がどれだけ利益を上げているかを把握することができます。
粗利率 とは
粗利率とは、売上高における粗利の割合を表したものです。粗利率と混同されやすい用語として利益率があり、それぞれは次のような違いがあります。
粗利率 |
売上高に対する粗利の割合 |
利益率 |
売上高に対する利益の割合 |
粗利率は、売上高に対する粗利の割合を示す指標で、直接的な販売コストのみを対象にしています。対して利益率は、企業の売上を示す次のような割合を総称した指標です。
- 売上高総利益率
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 売上高税引前当期純利益率
- 売上高当期純利益率
粗利率は、売上高総利益率(売上総利益)を指しており利益率の一種です。
営業利益・経常利益・税引前当期利益・当期純利益との違い
粗利率(売上総利益)の他に、利益率は4種類あり、それぞれ次のような違いがあります。
利益率 |
概要 |
売上総利益 |
売上高に対する売上総利益の割合を示す指標。企業の競争力・ブランド力を示す指標として活用される |
営業利益 |
営業活動によって得る利益の割合を示す指標。企業の収益性や販売・管理活動の効率性を評価する際に活用される |
経常利益 |
営業外の収益と費用を含む利益を示す指標。企業の活動から生まれる利益の水準を把握でき、財務体質や収益性の総合的な評価に活用される |
税引前当期利益 |
税金を考慮しない、営業外の収益と費用を含む利益を示す指標。法人税などが控除される前の利益を評価でき、経営の健全性を把握できる |
当期純利益 |
すべての収益と費用を考慮した最終的な純利益を示す指標。企業の収益性や利益の健全性を評価するために活用される |
それぞれの違いを理解しておけば、企業の利益率を把握できます。
粗利・粗利率の計算方法
粗利と粗利率は、それぞれ次の計算式で求めることができます。
■粗利 売上高 - 売上原価 |
例えば、売上高10万円の製品Aに5万円の原価がかかった場合、粗利は「10万円 – 5万円 = 5万円」です。
■粗利率 粗利 ÷ 売上高 × 100 |
また、売上高10万円の製品Aに5万円の原価がかかった場合、粗利は5万円であるため、粗利率は、「5 ÷ 10×100 = 50%」と算出できます。
粗利で判断できること
次に、企業経営において粗利から判断できることを詳しく掘り下げていきます。
具体的には、主に3点が挙げられます。
原価の妥当性
粗利を把握することで、原価をどれほど抑えるべきかの妥当性を判断することにつがります。
粗利が大きいほど、利益率が高く原価に対する収益性が高いと考えられるため、例えば製品価格が同程度の場合で、競合他社と比較して粗利が低いようであれば、他社より原価がかかり過ぎている可能性があります。
製品が生む「付加価値」
粗利は製品・サービスの販売価格から原価を差し引いたものであるため、その製品が生み出した「付加価値」を測る指標でもあります。
もしも粗利を稼げていない場合は、製品に原価以上の価値を付けられていないことを意味します。
企業が得た利益
粗利を求めることで、企業が製品・サービスの提供によって得た利益がわかります。
粗利は企業の重たる資金源でもあり、また粗利から経費(人件費・販管費など)を差し引くことで、最終的に企業に残る利益も把握することができます。そのため、企業における重要な指標として位置付けられています。
粗利だけでは判断できないこと
粗利だけでは判断できないことがあるため、他の利益率についての基礎知識が大切です。
主に次の3点は、粗利だけでは判断できません。
- 固定費の妥当性
- 営業外収益
- 企業に最終的に残る利益
利益率についての正しい理解を深めるために、粗利だけでは判断できない事柄を確認しておきましょう。
固定費の妥当性
粗利は、売上高から売上原価を差し引いて算出するため、固定義の妥当性を判断できません。
固定費とは、主に人件費や家賃・光熱費など企業が運営するために必ず発生するランニングコストであり、粗利を算出する際には影響しません。
そのため粗利が高い場合でも、高額な固定費がかかっている場合は、最終的な利益が減少します。
企業の経営状況を正確に判断するためには、粗利とあわせて固定費を調べておく必要があります。
営業外収益
粗利は本業から得られる利益を表しているため、営業外収益は判断できません。
企業の利益には、本業だけでなくその他の営業外収益や営業外費用が含まれます。
例えば、営業外収益には利息収入や配当金収入、営業外費用には借入金の利息支払いや特別損失など含まれ、企業の最終的な収益に影響します。
そのため、利益だけを確認しても、企業の最終的な収益を判断できません。
企業に最終的に残る利益
企業の最終的な利益を判断するには、粗利だけでなく売上高からすべての損益を差し引いた利益を確認する必要があります。
営業外収益や税金、固定費を差し引いた利益が、企業に最終的に残る利益です。
企業の最終的な利益を把握するために、損益決算書に記載されている下記の利益をすべて確認しておきましょう。
- 売上総利益(粗利)
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前当期利益
- 当期純利益
【業種別】粗利の目安と理想値
粗利は高ければ高いほど良いといえますが、一般的にはどれくらいの値となることが多いのでしょうか。
あくまで参考値ではありますが、「中小企業実態基本調査(令和2年確報)」によると業界別の平均粗利率は次の通りです。
【業界別粗利の平均値】 製造業:22.1% 小売業:31.2% 卸売業:15.2% 宿泊業、飲食サービス業:66.2% 建設業:24.4% 不動産業、物品賃貸業:43.3% 運輸業、郵便業:24.0% 情報通信業:43.2% 学術研究、専門・技術サービス業:59.4% |
粗利を上げる方法
粗利を上げる方法は、次の通りです。
- 商品価格を見直す
- 原材料のコストを削減する
- 生産性を上げる
- 付加価値を上げる
それぞれの方法を確認しましょう。
商品価格を見直す
粗利を上げるには、商品価格の見直しが効果的です。
例えば、1,000円で販売していた商品を1,200円に上げると、粗利が200円上がります。
ただしすでに定着している商品価格を値上げすると、顧客が離れるリスクがあるため、安易に上げてはいけません。
原材料価格の高騰などやむを得ない事情がある場合などに、商品価格を見直して粗利を確保しましょう。
原材料のコストを削減する
原材料のコストを削減すれば、粗利を上げられます。
商品価格の値上げが難しい場合でも、原材料のコストを削減すれば、粗利が上がります。
原材料のコストを削減する具体的な方法は、次の通りです。
- 仕入先と値下げ交渉する
- 現在より安価な仕入先に変える
- 大量発注により仕入単価を下げる
- 自社でできる範囲を巻き取り、外注費を削減する
ただし原材料のコストを削減するため、仕入先に無理な交渉をすれば、関係性が悪化してしまいます。
大量発注は在庫を抱えるリスクがあり、自社で多くの業務を巻き取るには、従業員の負担が大きくなります。
原材料のコストを削減する際は、安易に行わないよう注意して、計画性を持った慎重な判断が必要です。
生産性を上げる
生産性を上げると、1日に生産・販売できる数が増えることにより、粗利を上げられます。
生産プロセスや販売オペレーションを改善し、無駄な業務を削減することで、生産性を上げることが可能です。
また原材料や人件費など、余分なコストを削減することで生産性の向上へとつながります。
付加価値を上げる
商品やサービスの付加価値を上げると、価格設定を改善して粗利の向上につながります。
競合他社にはない価値や限定性の付加価値を付けることで、顧客1人あたりの取引単価が向上します。
付加価値を上げるには、企業のブランド価値を上げたり他社の人気キャラクターやブランドとコラボしたりと、他では手に入らない特別感を演出することが大切です。
粗利を把握してどのように活用するか
把握した粗利を経営活動に活かす方法としては、主に次のような方法が考えられます。
- 販売費及び一般管理費が適正か測る
- 経営戦略を立案・修正する
- 経営資源を最適に再配分する
- 販売価格を適正化する
それぞれの活用方法は、企業の経営状況を好転させる打開策になります。
企業の経営状況を向上させるために、粗利を把握しましょう。
販売費及び一般管理費が適正か測る
粗利と営業利益を比較すれば、販売費及び一般管理費にかかっている費用がどの程度か把握することができます。
例えば、「粗利が高くても、営業利益が低い」といった場合は、販売費及び一般管理費がかかり過ぎている可能性が考えられます。粗利を把握することで、自社の販売費及び一般管理費を見直すきっかけにもつながるでしょう。
経営戦略を立案・修正する
粗利を把握すれば、経営戦略の立案・修正に活用できます。
粗利が低い場合は、経営戦略を立案する際に商品価格の見直しや生産性を向上させる施策の導入が必要です。
反対に粗利が高過ぎる場合は、競合他社が市場ニーズに合ったより適正な価格で同商品・サービスを販売した場合、顧客満足度が低下する可能性があります。
粗利は企業の収益性を把握する指標となるため、経営戦略の立案・修正に有効的です。
経営資源を最適に再配分する
粗利は、経営資源を最適に再分配できます。
例えば、粗利率が高い商品やサービスに注力すれば、企業の利益を増加させられます。
反対に 粗利率の低い事業や商品やサービスは、生産性を改善したり市場から撤退させたり、組織の持つリソースを有効活用しましょう。
経営資源の効率的な運用により、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
販売価格を適正化する
粗利を分析すれば、販売価格を適正化できます。
自社の付加価値を明確にし、価格以外の競争軸を確立すれば、競合に負けない商品・サービスを提供できます。
また、粗利を分析して、市場の価格動向や競合状況をふまえた価格帯を設定することが大切です。
粗利を基に適正価格を見極めることで、収益性の向上と顧客満足度のバランスを図れます。
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