差引支給額とは、従業員の給与から税金や社会保険料を差し引いた金額のことです。差引支給額は給与明細において重要な項目の1つであり、従業員からの関心が高い項目でもあります。本記事では、差引支給額について必ず知っておきたい基礎知識や、総支給額との違い、計算方法などを網羅的にご紹介します。
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差引支給額とは
差引支給額=手取り額
差引支給額とは、会社から支払われる毎月の給与のうち、「従業員が実際に受け取る金額」のことです。会社が支払う給与総額から各種控除を差し引いた金額で、一般的には「手取り給与」と呼ばれています。
差引支給額は、給与明細に必ず記載される項目です。正しく算定できているか確認するには、法律や税金の知識、またその他の給与明細の項目への知識が必要です。
①差引支給額
「支給」欄の総額(総支給額)から、控除欄の総額を差し引いた金額。
②支給
各支給項目と、それらの総額(総支給額)。
③控除
各控除項目と、それらの総額。
④勤怠
該当月の勤務日数や勤務時間の内訳。
なお、上記の項目の基礎知識は、以下からご確認いただけます。
差引支給額と総支給額の違い
差引支給額と混同されやすい用語に「総支給額」があります。
総支給額とは、「会社が支払った給与額の合計」のことです。一般的には「額面給与」と呼ばれ、給与明細の支給欄に記載される基本給や各種手当(残業手当、住宅関連手当、通勤手当など)を合計すると求めることができます。
なお、総支給額や差引支給額と関連する用語に「課税支給額」や「課税対象額」があります。
課税支給額とは、総支給額から課税対象外となる通勤手当や旅費を差し引いた金額のことです。課税対象額とは、課税支給額から社会保険料を差し引いた金額です。いずれも、所得税額を算定する際に必要です。
注意が必要な支給項目
「支給」項目の中でも、特に「残業手当」と「通勤手当」の計算方法や規定は複雑であるため注意が必要です。それぞれの概要や計算方法について以下でご紹介します。
残業手当
残業手当とは、従業員が所定労働時間以上働いた際に、超過分に対して支払われる割増賃金です。給与明細の支給欄に記載されており、1分単位で算出する必要があり、会社に支払い義務がある項目です。残業手当は以下の方法で計算します。
<残業手当の計算方法>
残業手当 = 1時間あたりの賃金単価 × 割増賃金率 × 残業時間
計算式にある割増賃金率は、残業の種類によって異なります。代表的な残業の種類と、それに応じた割増賃金率は以下の通りです。
より詳細な残業の区分や割増賃金率を知りたい方は、厚生労働省のホームページをご確認ください。
なお、会社によっては支給が義務付けられている残業手当とは別に、「みなし残業代」を支給している会社もあります。みなし残業代とは、毎月に一定の残業時間が発生するものとして支給される固定の賃金です。みなし残業代は残業手当には含まれません。
このような会社独自の賃金体制を整備する場合は、会社の就業規則や労働契約に詳細を必ず明記しましょう。
通勤手当
通勤手当とは、通勤の際に必要となる交通機関の運賃や、自動車の燃料費などに対して支払われる賃金です。通勤手当に支払い義務はないため、会社の任意によって支給されます。
通勤手当は特定の要件を満たすことで一定金額が非課税となります。非課税対象となる通勤手当は以下の4つです。
①交通機関や有料道路を利用している人への通勤手当
②自動車や自転車などの交通用具を使用している人への通勤手当
③交通機関を利用している人への定期券の支給
④交通機関、あるいは有料道路に加え、交通用具も使用する人への通勤手当や定期券の支給
これらが非課税となる要件については、国税庁のページで詳しく解説されています。
差引支給額の計算方法
差引支給額は、総支給額から所得税や住民税などの控除項目を差し引くことで算定されます。
<差引支給額の計算方法>
差引支給額(手取り額)= 総支給額 – 控除額
地域や雇用条件によって差はありますが、通常、差引支給額の金額は総支給額の8割程度です。ただし、初任給の場合は社会保険料や住民税が控除されないため、計算方法の違いに注意しましょう。
次章では、総支給額から差し引かれる各種控除額の内訳や、その計算方法についてご紹介します。
控除額の内訳と計算方法
給与(総支給額)から控除される項目は、大きく分けると所得税、住民税、労働保険、社会保険料の4つに分類されます。
所得税
所得税とは、毎年1月1日から12月31日までの間に得た所得に課せられる国税です。
所得税は法定控除の1つであり、従業員の給与から控除することが法律で義務付けられています。給与明細の控除欄には「所得税」と記載され、従業員の代わりに会社がこの金額を納付しています。
所得税は、支給される給与の全額にかかる訳ではなく、課税対象となる「課税所得」分にのみ課税されます。課税所得や、そこから求める所得税は以下の方法で計算します。
<所得税額の計算方法>
①課税所得額を求める:課税所得額 = 総支給額 – 必要経費 – 各種所得控除額
②基準所得額を求める:基準所得額 = 課税所得額 × 所得税率 – 課税控除額
③所得税額を求める:所得税額 = 基準所得税額 – 税額控除額
それぞれの計算の詳細については、国税庁のホームページからご確認いただけます。
正しい所得税額を算定するためには、正確な総支給額を把握する必要があります。
しかし、従業員の年間の所得が確定するまでの期間は正しい総支給額が分かりません。そのため、従業員の給与から控除する毎月の所得税は、あくまでも概算の金額となっています。
したがって、従業員の年間の所得(総支給額)が確定する年末調整のタイミングで税額をあらためて計算し、差額については還付、または追加徴収します。
年末調整の仕組みや、手続きの注意事項などは以下の記事で解説しています。
住民税
住民税とは、住民票に登録されている住所の都道府県や市町村に納める国税です。
住民税も法定控除の1つですが、当年の税額は翌年の6月より1年間かけて天引きします。
住民税の納付方法は、「特別徴収」と「普通徴収」の2種類に分かれます。
特別徴収は、従業員の代わりに会社などが住民税を納付する方法です。対して、普通徴収は個人で住民税を納付する方法のことです。主に、個人事業主やアルバイトなど、特別徴収が適用されない人がこの方法で納付します。
住民税の計算方法は以下の通りです。
<住民税の計算方法>
住民税 = 所得割 + 均等割(+ 利子割 + 配当割 + 株式譲渡所得割)
住民税の主な構成要素は、「所得割」と「均等割」の2つです。
所得割は個人の所得に比例して決まる税金で、「前年の所得総額 × 税率 – 税額控除額」で求められます。この税率の基準は10%(道府県民税4%+市町村民税6%)です。
均等割は、所得に関わらず一定の金額が課せられる税金です。均等割の基準は2023年までは5,000円(道府県民税1,500円+市町村民税3,500円※)となっています。
※2014年度~2023年度の税額で、道府県民税・市町村税ともに防災費として500円ずつ引き上げられています。
実際には、以上の基準値を基に、都道府県や市町村が独自に納付額を定めています。また、東京都(23区)の場合は所得割や均等割の項目名称が異なります。
厳密な計算方法やその他の利子割の説明については以下をご覧ください。
労働保険料
労働保険料は、「雇用保険料」と「労災保険料」の2つの総称です。
■雇用保険料
雇用保険とは、被保険者(従業員)が失業ややむを得ない事情によって働けなくなった際に、再就職までの生活を保護する公的保険です。
法定控除の1つであり、会社と従業員で労使折半します。従業員を1人でも雇用している会社は保険の適用対象であり、従業員が要件を満たすことで加入義務が発生します。
<加入要件>
・雇用契約が31日以上見込まれること
・1週間あたりの所定労働時間が20時間以上あること
・学生でないこと
雇用保険料は以下のように計算します。
<雇用保険料の計算方法>
雇用保険料 = 総支給額 × 雇用保険料率
計算方法は会社と従業員で同一ですが、会社の方が雇用保険料率が高く設定されています。雇用保険率は、毎年、当該年度分(4月1日から翌年3月31日まで)が発表されています。年度によっては税率が改正されることもあるため注意しましょう。
■労災保険料
労災保険は、業務によって起こる事故や病気、障害に対して補償する保険です。
支払い方法は雇用保険料と異なり、全額が会社負担です。従業員の総支給額からは差し引かれないため、給与明細にも記載されません。しかし、従業員を1人でも雇用している会社には加入義務があるため、会社にとっては無視することができない保険です。
<労災保険料の計算方法>
労災保険料 = 総支給額 × 労災保険料率
労災保険料は、総支給額に労災保険料率を乗じて算定します。労災保険料率は、事業の種類によって異なります。例えば、林業や金属鉱業など、業務の特性上労働災害の発生リスクが高い事業ほど高く設定されています。
社会保険料
給与明細において、社会保険は健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つに分類できます。社会保険料はいずれも法定控除であり、支払い額は都道府県や加入している保険団体によって異なります。納税額については、会社と従業員で50%ずつ労使折半を行います。各種社会保険料の計算方法は、共通して以下の通りです。
<社会保険料の計算方法>
社会保険料 = 総支給額 × 各種社会保険料率 ÷ 2
社会保険料の算定で注意すべき点は、社会保険の適用対象となる年齢です。例えば、介護保険料の支払いは、介護保険第2号被保険者となる40歳から65歳の人だけが対象です。このような、適用資格が年齢によって変動する税金は次節でご紹介します。
被保険者の年齢により注意したい控除項目
控除項目の中でも、特に社会保険については、特定の年齢以上の人だけが控除対象となるものや、ある年齢を境に控除の適応資格を失う(控除されなくなる)ものがあります。
いずれも、給与の計算項目を変更する必要があるため注意が必要です。もしも給与計算システムなどを導入している場合は、あらかじめ従業員の生年月日を登録し、全ての控除項目が正しく算定されるようにしておきましょう。
給与の差引支給額を計算する際は、本章で取り上げた控除項目をはじめ、さまざまな税金を計算します。計算自体はツールで行われることがほとんどですが、間違いがないかを確認するために、各項目の意味や計算方法をしっかりと理解しましょう。
次章からは、差引支給額の理解を深めるために重要な基礎知識を2つ説明します。
差引支給額における基礎知識
差引支給額と関連した給与確認の知識に、マイナス控除の仕組みと、給与計算の間違いによる罰則や追徴課税の仕組みがあります。
マイナス控除とは
マイナス控除とは、何かしらの理由で給与明細の控除項目をマイナス値で計上することです。
通常、控除項目の値は総支給額から差引く金額を表します。そのため、マイナス控除を行うと、その項目を還付することになり、この金額分が差引支給額に加算されます。
マイナス控除が発生する要因としては、主に年末調整時の還付対応や、給与計算間違いによる調整が挙げられます。年末調整では、従業員から概算徴収していた税額よりも、12月末に確定した税額の方が少ない場合に、差額分を還付する必要があります。そのため、還付金については給与明細にマイナスで表示(マイナス控除)し、差引支給額に上乗せします。
年末調整で返還される還付金の基本については、以下の記事で解説しています。
また、給与計算を間違えるケースは稀ですが、もしも計算を誤り、本来よりも多くの税額を徴収してしまっていた場合は、発覚後速やかに従業員に通知し、謝罪を行ったうえで返金します。この際に、給与明細の該当の控除項目をマイナス控除で訂正、余分に控除していた金額を返金します。
給与確認を効率化する方法
給与確認の業務効率化を進めるには、まずは以下に取り組むことがおすすめです。
給与の確認方法を見直す
まずは、現状の確認方法の見直しを検討してみましょう。
給与確認の効率化が進まない要因としては、給与の計算自体をExcelやスプレッドシートで管理していることや、紙で発行していることがよく挙げられます。
給与計算の際にExcelやスプレッドシートを活用している会社では、支給項目や控除項目の税率・規定が改正された後の関数反映や、データのバックアップが取れなかった際に再度同じ作業を行う際に手間やミスが発生しやすくなります。また、管理方法や関数の理解が属人化しやすいため、業務の標準化が進まず非効率な状態になっている可能性もあります。
これに加え、給与明細を紙で発行していると、給与情報が流出しないように管理することや、発行・封入・配付/送付の作業に手間がかかります。また、印刷用紙やインク代、郵送代などのコストもかかるため、毎月の支払いやボーナスの支給ごとに給与明細を印刷していると多額の費用がかさんでしまいます。 そのため、給与明細の電子化やペーパーレス化が進んでいない会社の場合は、まずはそこから見直すことをおすすめします。
WEB給与明細システムを活用する
給与明細の効率化を進める方法としては、WEB給与明細システムの活用が有効です。
WEB給与明細は、文字通り給与明細をWEB上で確認できるソリューションシステムです。WEB上でデータを一元管理するため、スマートフォン、PC、タブレットといった端末の機種や、確認場所を問わず利用できます。システムによっては給与明細の他、勤務実績や社内報などの配付にも対応しています。
また、紙の給与明細を発行する手間やコストがかからないため、従来の作業負荷軽減や印刷費用や郵送費用などのコストを削減することも可能です。
給与確認の負担を軽減しましょう
今回は給与明細の差引支給額について、総支給額との違いや計算方法について解説しました。最近ではシステム化も進み、管理も容易になってきていますが、差引支給額は従業員にとって関心の高い項目のため、その計算方法も含めて説明ができるよう、正しく理解しておきましょう。
なお、給与明細を管理する人事・給与担当者の業務は煩雑になりやすく、現場で非効率が発生することも少なくありません。大興電子通信のクラウドサービス「i-Compass」は、給与明細や年末調整申告書をWEBで保管し、給与明細の手配や回収にかかる手間・コストを削減できます。
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