製造業における生産管理の効率化に欠かせないのがMRP(資材所要量計画)です。在庫管理やコスト削減、生産性向上など、さまざまなメリットをもたらすMRPですが、導入にはいくつかの注意点も存在します。本記事では、MRPの基礎知識から導入メリット、注意点、成功の秘訣まで、MRPを活用するための情報を幅広く解説します。
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MRP(資材所要量計画)の概要
MRP(資材所有料計画)とは何かについて解説します。
MRPとは?
MRPとは、Material Requirements Planningの略で、日本語では「資材所要量計画」と訳されます。製造業において、生産計画に基づいて必要な資材を必要なタイミングで必要な量だけ調達するための手法です。
MRPの重要性は、在庫管理の最適化にあります。製造業では、過剰な在庫は保管コストを増大させ、在庫不足は生産の遅延を引き起こす可能性があります。MRPは、これらの問題を回避し、効率的な生産を実現するために不可欠な手法です。
MRPの原則は、「必要なものを、必要な時に、必要な量だけ」調達することです。原則に基づき、MRPは生産計画、部品構成表(BOM)、在庫情報の3つの要素を組み合わせて、資材の必要量と調達時期を正確に算出します。
MRPを導入すると、企業は在庫コストの削減、生産性の向上、お客さまサービスの向上など、さまざまなメリットがあります。特に、需要の変化に柔軟に対応できる点は、今日のビジネス環境において非常に重要です。
MRPの歴史的背景
MRPは1970年代にアメリカ生産在庫管理協会(APICS)によって提唱された資材所要量計画の手法です。当時は、生産管理の効率化が求められており、MRPはそのニーズに応える画期的な手法として注目されました。MRPは、生産計画に基づいて必要な資材を必要なタイミングで必要な量だけ調達を可能にし、在庫管理の最適化に貢献しました。
その後、MRPは進化を遂げ、1980年代にはMRP2(Manufacturing Resource Planning:製造資源計画)が登場しています。MRP2は、MRPの概念を拡張し、資材だけでなく、人員や設備など、製造に必要な資源を管理対象にして、より包括的な生産管理を実現しました。
1990年代には、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)が登場しました。ERPは、MRP2をさらに進化させ、生産管理だけでなく、財務会計、販売管理、人事管理など、企業全体の経営資源を一元管理するシステムへと発展していきます。ERPは、企業全体の業務効率化と経営の意思決定を支援する強力なツールとして、現在も多くの企業で活用されています。
MRPは時代とともに進化し、MRP2、ERPへと発展してきました。現代の製造業においては、ERPが主流となっていますが、MRPの「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」という基本的な考え方は、生産管理の根幹をなす重要な原則であることは変わりません。
MRPの計算に必要な情報と計算プロセス
MRPの計算に必要となる情報、計算のプロセスについて解説します。
MRPの計算に必要な3つの情報
MRP計算に必要な3つの情報は以下の3つです。
- 生産計画
- 部品構成表(BOM)
- 在庫情報
それぞれ解説します。
生産計画
生産計画とは、製品の生産量と生産時期を決定する計画のことです。
生産計画は、以下の要素を考慮して策定されます。
- 受注数:すでに確定している受注に基づいて、必要な製品の数量を決定
- 需要予測:将来の需要を予測し、必要な製品の数量を決定
- 販売計画:販売目標を達成するために必要な製品の数量を決定
生産計画を基に、部品構成表(BOM)を作成します。
部品構成表(BOM)
部品構成表(BOM)とは、ある製品を製造するために必要な部品や材料の種類と数量を一覧にしたものです。製品を構成する部品だけでなく、部品を構成するさらに細かい部品や原材料まで階層的に記載されます。BOMは、いわば製品のレシピのようなもので、MRPの計算において中心的な役割を果たします。
BOMの主な種類は以下の2つです。
- サマリー型BOM
製品に必要な部品とその数量を、階層構造を持たずに一覧で表示します。必要な部品の数がわかりやすい反面、製品の構造や組み立て順序は把握できません。 - ストラクチャ型BOM
製品を構成する部品を階層構造で表示。製品を頂点とし、その下に構成部品、さらにその下に原材料といったように、ツリー状に展開されます。製品の構造や組み立て順序が把握できるため、MRPの計算だけでなく、設計変更の影響範囲の特定や原価計算にも役立ちます。
MRPの計算では、生産計画で決定された製品の生産量とBOMの情報から、必要な資材の総所要量を算出します。BOMが正確でなければ、必要な資材の量が誤って計算され、在庫不足や過剰在庫を引き起こす可能性があります。そのため、BOMの正確な作成と維持は、MRPの効果を引き出すために不可欠です。
在庫情報
在庫情報とは、その時点で保有している資材の在庫数、発注済みで未納の資材の発注残数、そして製造中の仕掛品の数などを指します。MRPの計算において、在庫情報は非常に重要です。
在庫情報は、発注のリードタイム(発注から納品までの期間)と発注ロット(一度に発注する数量)の決定にも影響を与えます。在庫が少ない場合は、リードタイムを短くしたり、発注ロットを増やしたりする必要性を考慮しなければなりません。
在庫情報は常に変動するため、正確な在庫情報の維持が重要です。在庫管理システムなどを活用し、リアルタイムで在庫情報を更新すれば、MRPの計算精度を高め、効率的な資材調達を実現できます。
MRPの計算プロセス
MRPの計算プロセスは、以下の6つのステップで行われます。
- 基準生産計画(MPS)
最終製品の生産計画をMRPシステムに入力します。MRPでは、タイムバケットと呼ばれる短い期間(1週間や1日など)で生産計画を管理します。 - 総所要量計算
基準生産計画に基づき、必要な部品の総所要量を部品構成表(BOM)を参照して計算します。必要な部品の総数を把握するためのステップです。 - 正味所要量計算
在庫情報や発注残情報を考慮し、実際に必要な部品の正味所要量を計算します。総所要量から在庫と発注残を差し引き、不足している部品の数量を特定します。各部品が必要となるタイミングも決定します。 - ロット編成計画
発注スケジュールに基づき、適切な発注量(ロットサイズ)を決定します。ロットサイズとは、一度に発注する部品の数量のことです。適切なロットサイズを設定して、在庫コストと発注コストのバランスを最適化できます。 - 先行計算
部品の調達にかかるリードタイムを考慮し、各ロットの発注時期と納期を決定します。リードタイムとは、発注してから部品が納品されるまでの期間のことです。リードタイムを考慮すると、必要な部品が適切なタイミングで納品されるように計画できます。 - 計画オーダー(着手ベース)
以上の計算結果に基づき、部品の発注計画を確定させます。計画に基づいて、実際に部品の発注が行われます。
MRPの計算プロセスは、生産計画に基づいて必要な部品の数量を正確に把握し、リードタイムを考慮して発注時期を決定して、効率的な資材調達を実現します。在庫不足や過剰在庫を防止し、円滑な生産活動に貢献します。
MRP導入のメリット
MRPの導入によって得られるメリットは、主に以下の3つです。
- 在庫管理の最適化
- 生産性の向上
- コスト削減効果
それぞれ解説します。
在庫管理の最適化
MRPを導入すると、在庫管理を最適化できる大きなメリットがあります。具体的には、以下の効果が期待できます。
- 不要な在庫リスクの軽減
売れ残りや陳腐化による損失を最小限に抑えられます。 - 適切なタイミングでの原材料調達
過剰在庫や在庫切れを防ぎ、機会損失を回避できます。 - 在庫管理システムとの連携
リアルタイムに在庫状況を把握し、最小限のリソースで在庫を管理できます。
生産性の向上
MRPを導入すると、生産性の向上も期待できます。
MRPによる適切な在庫管理は、効率的かつ計画的な資材調達を可能にします。資材の手配遅れによる生産ラインの停止などのリスクを回避し、常に効率良く生産を進められるためです。
具体的には、以下の効果が期待できます。
- 生産ラインの安定稼働
必要な資材を必要なときに供給することで、生産ラインの停止や遅延を防止します。 - 無駄な作業の削減
資材不足や過剰在庫に起因する非効率な作業を排除できます。
コスト削減効果
生産性が向上することでコストが削減でき、以下の効果が期待できます。
- 製品価格の抑制
在庫管理や生産効率の向上によるコスト削減効果を製品価格に反映させ、お客さまに還元可能です。 - お客さま満足度の向上
製品価格と供給量が安定することでお客さまからの需要に確実に応えられる体制を構築し、信頼を獲得できます。
MRP導入・運用における課題
MRPの導入はメリットばかりではありません。導入と運用における課題について説明します。
正確な在庫管理の難しさ
MRPの導入効果を引き出すためには、正確な在庫管理が不可欠です。しかし、正確な在庫管理を実現するのは容易ではありません。
MRPの計算では、生産計画で必要となる部品情報(総所要量)と在庫量(在庫数)から、発注対象となる正味所要量を算出します。そのため、在庫数を正確に把握できていないと、在庫の過不足が生じてしまいます。
在庫の過不足は、生産計画に大きな影響を与えます。在庫が不足すれば、生産ラインが停止し、納期遅延やお客さま満足度の低下につながる可能性があります。一方、過剰な在庫は、保管コストの増加や在庫の陳腐化を招き、企業の収益性を圧迫しかねません。
正確な在庫管理を実現するためには、入出庫情報のリアルタイムな更新、在庫管理システムの導入、定期的な棚卸など、さまざまな取り組みが必要です。また、在庫管理に関わる従業員の教育や意識向上も重要です。
MRPを導入する際には、正確な在庫管理を実現するための仕組みづくりが不可欠であると認識し、適切な対策を講じなければなりません。
適切なリードタイム設定の重要性
MRPにおいて、適切なリードタイム設定は非常に重要です。リードタイムとは、発注から納品までの期間を指します。リードタイムが正確に設定されていないと、MRPの計算結果にずれが生じ、在庫不足や過剰在庫を引き起こす可能性があります。
リードタイムが短く設定されていると、必要な資材が納期に間に合わず、生産計画に遅延が生じかねません。一方、リードタイムが長く設定されていると、必要以上の資材を早めに発注してしまい、過剰な在庫を抱えるリスクがあります。
正確なリードタイム設定のためには、サプライヤとの連携、過去の納品実績の分析、輸送状況の考慮など、さまざまな要素を考慮しなければなりません。また、リードタイムは常に変動する可能性があるため、定期的な見直しも重要です。
適切なリードタイム設定は、MRPの精度を高め、効率的な資材調達を実現するために不可欠です。
データ精度の維持
MRPの計算は、入力されるデータの精度に大きく依存します。生産計画、部品構成表(BOM)、在庫情報といったデータに誤りや不整合があると、MRPの計算結果も不正確になり、在庫管理や生産計画に悪影響を及ぼしてしまいます。
例えば、BOMに記載された部品の数量が誤っていた場合、必要な資材の量が誤って計算され、在庫不足や過剰在庫を引き起こす可能性があります。また、在庫情報が最新の状態に更新されていなかった場合、実際に必要な資材の量が正確に把握できず、適切な発注ができない可能性があります。
データの精度を維持するためには、定期的なデータの確認と修正、データ入力時のダブルチェック、データ入力の自動化など、さまざまな対策が必要です。また、データ管理システムを導入し、一元的にデータを管理するのも有効です。
MRPの効果を引き出すためには、常に正確なデータに基づいて計算を行わなければなりません。データ精度の維持は、MRPの運用において重要な要素の一つと言えます。
MRP導入時の注意点
MRPを導入する際はどのような点に注意すれば良いか解説します。
導入目的とシステムの適合性
MRPシステムを導入する目的を明確にし、その目的に合ったシステムを選ぶことが重要です。生産効率の向上、適正在庫の維持、納期短縮、品質向上、コスト削減など、MRPシステムによって期待できる効果は様々です。
導入前に、自社の課題や目標を明確にし、それらに対応できる機能を備えたシステムを選ぶようにしましょう。例えば、在庫管理の最適化を重視する場合は、在庫状況をリアルタイムで把握できる機能や、需要予測に基づいた発注提案機能などが役立ちます。
また、自社の生産手法に適したシステムを選ぶことも重要です。業種や製品の種類によって、最適な生産管理システムは異なります。食品製造業であれば、トレーサビリティ管理機能や賞味期限管理機能が重要になるでしょうし、受注生産型の製造業であれば、個別受注に対応できる柔軟な生産計画機能が求められます。
データ管理や継続的な改善への適応性
定期的なデータの確認・修正や、必要に応じたシステムの設定の見直しなどを見越した、メンテナンスや改善が容易なシステムを選びましょう。
MRPシステムの効果を最大限に引き出すためには、正確なデータに基づいた運用が不可欠です。在庫情報や部品構成表(BOM)など、常に最新の情報をシステムに反映させる必要があります。
また、MRPシステムの運用状況を定期的に評価し、問題点や改善点を見つけ出すのも大切です。システムの改善や業務プロセスの見直しができるよう、ログ分析やユーザーからのフィードバックなどが得やすいかという観点も重視しましょう。
サポート体制の充実
MRPシステムを導入する際には、ベンダーのサポート体制も重要な検討事項です。システムの導入や運用に関する疑問・トラブルが発生した場合に、迅速かつ適切なサポートを受けられる体制が整っているかを確認してください。
サポート範囲や問い合わせ方法、対応時間などを事前に確認しておくのをおすすめします。また、ベンダーによっては必要に応じてシステムの操作方法や運用に関する研修を実施してもらうことも可能です。
MRP成功のための重要ポイント
MRP導入を成功させるための主なポイントは以下の3つです。
- 計画変更への柔軟な対応
- 部門間連携の強化
- 継続的な改善活動
それぞれ詳しくご紹介します。
計画変更への柔軟な対応
生産計画に基づいて資材調達計画を立てるため、計画変更が発生した場合、それに合わせて資材計画も迅速に調整する必要があります。計画変更が発生した場合には、変更内容を正確に把握し、スケジュール、人員、設備などを調整し、システムに再登録する必要があります。
部門間連携の強化
MRPは、生産計画、部品構成表(BOM)、在庫情報など、複数の部門にまたがる情報を統合して機能するシステムです。そのため、各部門がスムーズに連携し、情報を共有できる体制が整っていなければ、MRPの効果を引き出せません。情報共有の仕組みやルールの明確化、コミュニケーションツールの活用、定期的な情報共有会の開催などが有効です。
継続的な改善活動
MRPは導入しただけで自動的に最適な結果が得られるわけではありません。計画変更による調整業務やデータの見直し、情報共有体制の整備など、継続的な改善活動が必要です。MRPの運用状況を定期的に評価し、問題点や改善点を見つけ出し、システムや業務プロセスを改善していくことが重要です。
MRPを活用して生産性を向上させよう
MRP(資材所要量計画)は、生産管理の手法として、製造業において非常に重要な役割を果たします。MRPの導入により、企業は「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」調達する原則に基づいて、在庫管理の最適化、生産性の向上、コスト削減効果、お客さまサービスの改善といったさまざまなメリットを得ることができます。
MRPの計算には、生産計画、部品構成表(BOM)、在庫情報の3つの要素が不可欠です。情報を正確に管理し、MRPの計算プロセスに沿って適切に運用すると、MRPのメリットを引き出せます。
しかし、MRPの導入と運用には、正確な在庫管理、適切なリードタイム設定、データ精度の維持など、いくつかの課題も存在します。課題を克服し、MRPを成功させるためには、業務プロセスの見直し、データ移行と精度確保、従業員教育といった取り組みが重要です。
特に、計画変更による業務調整、部門間連携の強化、継続的な改善活動は、MRPの運用を成功に導くための重要なポイントです。ポイントを押さえ、MRPを効果的に活用すれば、企業は生産性を劇的に向上させ、競争力を強化できます。
MRPは、単なる在庫管理ツールではなく、企業全体の生産活動を最適化するための戦略的なツールです。MRPの導入を検討している企業は、メリットと課題を十分に理解し、適切な導入計画を立てなければなりません。MRPを効果的に活用すれば、企業は持続的な成長と発展を実現できます。